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【スタートアップCEOインタビュー】37兆円規模の国際物流市場×DXの最前線を疾走するスタートアップShippio

株式会社Shippio 

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Shippio代表取締役CEO 佐藤孝徳氏(左)と人事の小野寺ひびき氏

コロナ禍による港湾施設のロックダウンや不透明な国際情勢による物流の混乱、慢性的なコンテナ不足や輸送費高騰など国際貿易を巡る課題は山積している。
労働人口も減少する中で貿易業界のデジタル化は避けられない。欧米でも急速に進む貿易業務のDXを日本で推し進めているのがShippio(シッピオ)だ。同社はさまざまな貿易業務を効率化するクラウドサービスと、フォワーディングと呼ばれる国際輸送の手配業務を提供している。2016年に創業し、2018年から事業を本格的に開始。そこから5年で社員数は約60人、累計資金調達額は約30億円にまで成長している。
貿易DXの最前線を突き進むShippioの創業の経緯や国際的なマーケットを切り開く醍醐味について、代表取締役CEOの佐藤孝徳氏に伺った。
※このインタビューは2023年1月に実施しました。なお、所属・肩書は当時のものとなります。

 

目次

 

37兆円市場のDX推進を担う国内のトップランナー

 

──創業の経緯をお聞かせください

 

佐藤氏:私は2006年に三井物産に新卒入社し、原油のトレーディングやオペレーション、マーケティング業務に従事していました。3年目に中国へ赴任した後に帰国し、ベンチャー投資など短期スパンの投資を担う企業投資部に異動します。そこから中国に再び赴任し、現地法人の子会社で中国全体の投資戦略を担当していました。

 

共同創業者の土屋(取締役COO 土屋隆司氏)とは、この頃に知り合いました。彼はエネルギー部門の若手エース社員でした。若手の駐在員は少ないので、本業以外の業務も幅広くこなす必要があったのですが、土屋とはそういった業務を一緒にこなしてきた仲間でした。

 

彼と焼鳥屋で飲んでいた時に日本に帰国して、起業することを明かしました。土屋はMBAの勉強をしていて別の企業に転職することは考えていたそうなのですが、私の話を聞いて「起業しようと考えたことはなかった」と興味を示しました。「面白そうなので、一緒にやりますか」と誘ったら二つ返事で決まり、2016年に2人とも三井物産を辞めて日本に帰国し、同年の6月に創業しました。

 

 

 

──なぜ貿易業務のデジタル化に取り組もうと思ったのでしょうか?

 

佐藤氏:私自身、貿易業務の煩雑さを経験したと同時に、デジタルで仕組み化することのやりがいやインパクトを感じていました。一方で起業するのであれば社会貢献度が高く、産業に大きなインパクトを与える事業であり、何千億円規模のビジネスを目指せる事業ドメインにしたいと考えていました。今、私たちが関わっている事業領域は国内では2兆円、グローバルでは37兆円もの市場規模です。

 

創業当時にも物流関連のスタートアップは日本国内にありましたが、そのほとんどは国内の配達・配送に関連した事業でした。日本は島国で輸出入が欠かせない一方で、貿易は古くからの商慣習が根強い巨大産業であり、デジタル化を進めるには高いハードルがあります。

 

──どういった参入障壁があるのでしょうか?

 

佐藤氏:国際物流は複数の国をまたぐ取引ですので、倉庫会社や航路、空路、陸送を担う各企業や通関など、ステークホルダーが多いことが挙げられます。どこか一社にサービスを提供して終わりではなく、さまざまなステークホルダーとのバランスを考慮したり、業界の商習慣に照らした対応など、非常に難易度が高い市場です。

 

輸出入というと、どこか遠い世界の話に思われるかもしれません。しかし、私たちが着ている服の多くはインドネシアやベトナムで生産されていますし、日常的に使っているスマートフォンも中国やアメリカから輸入していますよね。そういった輸出入を支えるインフラには国内だけでも2兆円規模の市場があり、私たちはその先頭に立ってDXに取り組んでいます。

 

──さまざまなステークホルダーとの間に立ちながらも、着実に事業を前進させている理由を教えてください。

 

佐藤氏:業界の仕組みを変えるためには時間と労力が欠かせません。魔法のような仕組があると思われるかもしれませんが、私たちは新しい仕組を作るために人の何倍も手を動かしますし泥臭い作業もします。大きな産業に向けたサービスで時間もかかりますので、コンシューマー向けサービスのように1年で急成長する性質ではありません。その前提を理解した社員の採用には力を入れています。

 

SaaS+オペレーションサービスを持つことの強み

──貴社は単純にSaaSを提供するだけでなく、フォワーディング業務も手掛けていますよね。

 

佐藤氏:フィンテック系のスタートアップでもSaaSだけを提供していた企業が請求書発行サービスや法人のクレジットカードを発行するといった業務を始めていて、1つのトレンドのようになっていますよね。SaaSだけでなく、その先にある物流サービスと両軸で事業を回すのが当社の強みにもなっています。

 

現在はデジタルフォワーディングが中心ですが、2022年9月には他のフォワーディング事業者の扱う貨物もカバーする「Any Cargo」のβ版をリリースし、2023年1月には有料サービスとしての本格提供を開始しました。その先には通関のデジタル化のサービスも計画していますし、シリーズB出資を受けた東京海上日動火災保険と貿易金融に携わるフィンテックサービスも検討しています。

 

将来的にはアジア圏を皮切りに海外への進出も視野に入れています。そのためには組織の拡大も重要です。現時点では60人ほど社員がいますが2023年中には100人前後になるよう、さまざまなポジションで採用を進めています。とはいえ無闇に採用するのではなく、自分たちにとって必要な人材を一人ずつ採用していく方針です。そのほうが会社としての機動力も高いし、時間のかかる事業ですからメンバーの採用に妥協はありません。

 

 

 

──採用で重視しているポイントについて教えてください

 

佐藤氏:社会性の高い事業に取り組むことで、産業に大きなインパクト与えたいと考えている人とは共感できる点が多いと思います。面接では論理的な思考能力や課題を抽象化・構造化する能力を見ていますが、それと同時にどの程度の好奇心を持っているかも重視しています。好奇心は後から身につけるのが難しいですが、組織を巻き込んで大きな成果を挙げる熱源になるので、これまでのキャリアでどのように好奇心や情熱と向き合って仕事をしていたかは伺っています。

 

三点目に重視しているのは「暗闇の中でも疾走できる能力」です。
新しい事業に挑戦するにはストレスがかかる場面もあります。自ら打席に立つ際のプレッシャーと向き合った経験が必要ですね。この領域では私たちが常に先頭を走っているので、業務に関することで検索をかけても自分たちの情報しか出てこない状況です。攻略方法がわかりきっていないなかで、常に勝ち筋を探しながら疾走しているという面では、非常にスタートアップらしい環境だと思います。

 

──ボードメンバーにはメガベンチャー出身の方やグローバル企業出身の方など、組織力の強さが際立ちます。どのような点に魅力を感じて、入社されたのでしょうか。

 

佐藤氏:CPOの森(泰彦氏)のケースを紹介すると、彼はフリーランスとして複数のスタートアップをサポートしていました。彼は以前在籍していたマイクロソフトやラクスルで面白いことは一通り見尽くした手応えがあって、フルコミットではなくフリーランスとして複数のスタートアップの製品開発を支える働き方を選んでいたのです。

 

しかし、子供が生まれたのを機に「子供が大人になったときに、誇れるような仕事ができる会社が果たして日本にあるだろうか」と考えるようになったそうです。そこには日本が国際的な競争力を失っていき、新たな企業が生まれなくなることに対する危機感があり、グローバル市場で戦える企業のサポートをしたいと考えていたようでした。

 

転職エージェントを介して、彼の紹介を受けた際も「フルコミットではなく、顧問やアドバイザーであれば」という話だったのですが、私や土屋が一ヶ月ほどかけて口説いてフルコミットで参画したという経緯があります。最終的には私たちが目指しているビジョンや市場規模、グローバルを目指した事業展開に共感を得てボードメンバーへの参画に至りました。

スタートアップで働く意味

 

 

──平均年収が大企業を上回るという報道もあり、スタートアップに転職される優秀な方が日本でも増えています。大企業とスタートアップ両方での働き方を経験された佐藤さんにとって、スタートアップで働く魅力をどのように捉えていますか?

 

佐藤氏:私が三井物産にいた当時、欧米や中国の同年代が続々と起業しているのを目の当たりにしていました。先進国の優秀な若者は大学卒業後のキャリアを起業、スタートアップへの就職、一般企業への就職という優先順位で選びます。一方で日本に目を向けると、起業よりも一般企業への就職を選ぶ方が未だに多い状況ですし、起業して大きなスタートアップをグロースできる人材自体がまだ少ない印象があります。

 

私は大企業を経て起業しましたが、夢を持って仕事に取り組めるのがスタートアップの良さだと思います。スタートアップでの働き方が合っている人の中には、年収以前に夢やビジョンが無いと働く動機が湧かないという方もいます。Shippioでもビジョンに対する共感を採用時だけでなく、入社後も重視しています。それは全社会議や年次総会の表彰の場で伝えたり、昇進する際も自分たちのカルチャーを体現できている人材かを重視しています。

 

──急成長の源泉にはカルチャーやビジョンへの共感が欠かせないということですね。事業が拡大する中で、どういった方に入社してほしいと考えていますか?

 

現在募集しているセールス部門で言えば営業のトップラインを形成できる方を求めています。事業成長無くしては次の展開も資金調達もできませんので、まずは毎月安定して売上を伸ばしていける状況を足固めしたいですね。デジタルフォワーディングとクラウドサービスを活用した課題提案ができ、1つの商流からアップセルへつなげるストーリーが描けることが重要ですが、時間をかけて国際物流に大きなインパクトを与えることへの共感は重要です。今、在籍している社員の多くは物流業界への興味以前に「日本から大きな産業を生み出したい」そのために自分のスキルや経験を活かしたいという思いで入社しています。そういった思いを持った方にぜひ来ていただきたいと思います。

 

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