ベストセラー「アフターデジタル」シリーズ著者 藤井氏に聞く ——DX時代の組織とビジネスパーソンのあり方

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2019年に日経BPから刊行された「アフターデジタル - オフラインのない時代に生き残る」(尾原和啓氏、藤井保文氏共著)は、あらゆるシーンでオンラインがオフラインの活動を内包する状況を『アフターデジタル』と定義し、社会と企業の変革を説いたベストセラーだ。

その「アフターデジタル」の続編として、2020年に藤井保文氏が著した「アフターデジタル2 UXと自由」が注目を集めている。本書では前作を引き継ぐ形でアフターデジタル以降の社会構造やビジネスモデルの変化を解説すると共に、日本企業はどうあるべきかを実例とともに解説している。DXを意識する経営者や企業幹部だけでなく、DX推進を担う現場のビジネスパーソンにとっても大いに参考になる書籍だ。

今回は「アフターデジタル2」の著者であり、UXデザインコンサルティングなど行うビービットの東アジア営業責任者を務める藤井氏に、日本のビジネスパーソンに向け、DX推進を成功させるためのヒントを聞いた。

インタビュイー

藤井 保文 氏

株式会社ビービット 東アジア営業責任者
1984年生まれ。東京大学大学院修了。上海・台北・東京を拠点に活動。国内外のUX思想を探究し、実践者として企業・政府へのアドバイザリーに取り組む。著作『アフターデジタル』シリーズは累計15万部を突破。AIやスマートシティ、メディアや文化の専門家とも意見を交わし、新しい人と社会の在り方を模索し続けている。

UXのないDXは存在しない

−−海外の先進国と比較して、日本はDXが遅れているという意見があります。「アフターデジタル2」では経営層から現場社員に至るまで、DXのイメージを共有することが重要だと説いていますが、日本企業のDXを阻む壁はどこにあると思いますか

まず第一に何のためにDXをやるかを理解していないために、単純なデジタル化で止まっている状況があると思います。

システム導入や、ビジネスのプロセスにデジタルを導入することによる効果は一定量あることは否定しません。しかし、「どういった時代の変化があり、環境がどのように変わるから、何を変えなくてはいけないのか。そして、自分たちはどうあるべきなのか」という定義がないまま効率化を進めても、企業は生き残れない時代を迎えています。

製造業での成功体験が強い日本企業においては、プロセスを重視する文化が依然として強く、結果として「デジタルを導入する、DXを進める」というプロセス自体が目的になっていることが大きな問題だと思います。

モバイルアプリやIoT、センサーから収集する情報など、収集できる行動データも多様化しました。従来は年齢や職業といった属性データを参考にするしかありませんでしたが、より精緻な行動データが集められるようになり、個人が置かれている状況やモード、行動のタイミングまで把握できるようになりました。そういった変化が起きている中で、「今まで通りのやり方で良いのか」という疑問からスタートするべきなのだと思います。

−−DX化を実現する上で重要な行動データについて、日本企業が理解すべきポイントはありますか?

行動データを得るためには顧客に自社のサービスや製品を使い続けてもらう必要があります。それには「5年に一度製品を買う」といった低頻度な購買データだけでは不十分で、購買前後の行動も得る必要性があります。

「アフターデジタル2」でも、さまざまな事例を紹介していますが、それまで販売していた製品だけでなく、例えば連動するアプリを経由して顧客との接点が増やせることによって、 価値のある行動データ群が集まる環境ができるわけです。

行動データを集めるためには、ユーザーが使い続けたいと思う体験を提供する必要があり、行動データの収集よりも前に、良いUXなり体験を提供することが重要になる。だからこそ、DXにおいてもタッチポイントが限定的な製品販売型によるビジネスモデルから、さまざまなタッチポイントのある体験提供型によるビジネスモデルへの移行が必然であり、そのためにはUXを何よりも大事にする必要があります。

−−藤井さんの著書ではデータの収集経路と内容は豊かになっても、それを通じてアプローチした内容が、ユーザーにとって良い体験だと思えなければ、真のDXとは言えないと指摘されています。そういった「良いUX無きDX」の落とし穴にはまる事例は多いのでしょうか。

おそらく、「アフターデジタル」シリーズが多くの方に読まれているのも、そういった理由だと思われます。DXというバズワード化した言葉が先行し、体系的に理解するタイミングもないままに、上層部から「デジタル化を進めよ」という言葉だけが降りてくるケースや、上層部は『アフターデジタル』の世界観を理解していたとしても、現場に指示する際の言葉が不十分なために、AIを導入する話で止まっているケースが散見されます。

例えば、コンビニ業界のA社が無人コンビニを実験店舗として、1店舗立ち上げたとします。それを見た競合B社は、A社よりも少し良い無人コンビニを作り、更にそれを見たC社が…という連鎖が起きるわけですが、ここで重要なのは最初に立ち上げたA社が無人コンビニを始める前に、行動データを収集し、状況を理解して改善するという、UXグロース業務のケイパビリティがあったのかという点です。

もし、無人コンビニをオープンさせる前に、今あるウェブサイトやアプリ、既存店舗から行動データを得て、改善に生かせるというサイクルが内部になければ、A社は先行者としてのメリットを生かせないでしょう。

新規事業を立ち上げた際、一定の新規性があればニュースバリューも生まれるので、初速のタイミングでは多くの人が利用するでしょう。その状況でデータが取得できていて、個々の状況に合った商品の提案やクーポンが提供できたり、うまく行ってないポイントを見つけて全体の動線を変えたり、必要な機能を追加する—こういったケイパビリティが備わっていれば、先行者利益をうまく利用しながら、競合には無いデータを武器に新規事業を軌道に乗せられる確度は上がります。

日本の企業は事例が好きで、センセーショナルな事例を見てアクションを起こす一方で、先のようなケイパビリティ育成を怠るケースが一定数あると思います。

DXに必要なのは対話を生む企業文化と、視点転換力

−−ご指摘されたような状況を突破するためには、日本企業はどのように組織を改革していくべきでしょうか。

本質的には文化を形成していくことが不可欠だと思います。現場の言うことは絶対というような関係や、上司や上層部の言うことを聞かざるを得ないような企業文化では、これからの時代の変化に対応できないのではないかと思います。

「上や現場とか関係ない、お客様が困っているじゃないか」と、ユーザー視点で考えて話しあえる文化が根底にあることは必須命題だと思います。

製品販売型モデルの時代においては、各部門がモジュールやパーツを製造し、組み立てて完成した製品が顧客とのたった1つの接点として機能し、価値を代弁してくれていました。
しかし、体験提供型モデルにおいては、製品は顧客にとって、いくつかあるうちの一つの接点でしかありません。そのため、製品開発部門だけでなく、アプリを開発するエンジニアやマーケティング担当、コールセンターのスタッフに至るまで同じ価値観を意識して動かないと、ユーザーにとっては統一感の欠けた印象を持たれてしまいます。

統一感が内部に無いと、どういった事が起きるかと言えば、店舗での接客や商品は素晴らしいラグジュアリーブランドのウェブサイトがやたら使いにくいとか、すごく便利なサービスを提供する企業のコールセンターの対応力が低いといった状況が起きるわけです。

たった一つの悪い接点のために、ユーザーからの評価を損なうことがないよう、各自が上層部から降りてきた方針に対して、真摯に向き合って理解すると共に、現場でも話し合い、ボトムアップから生まれたものがあれば上層部に返すといったような形で、対話を重ねながら意識を合わせて動くことで、各接点同士の統一感を持たせる——そんな文化を醸成できるかどうかが重要だと思います。

−−「アフターデジタル2」では対話型組織で改革をすすめる例としてマルイを挙げていましたね

マルイのような対話型組織というのは一つのあり方で、企業ごとに組織のあり方は異なって良いと思います。海外では 必要な人員を入れ替えるケースが多いですね。そこまで振り切って組織を変えることができるなら、文化づくりは必要ないとも言えます。

−−多くの日本企業は大企業を中心に新卒採用を重視し、適材適所で必要な人材を中途で採用するモデルが中心だと思います。その適材適所の中途採用として、DX人材を採用する際の判断基準はありますか?

先程、統一されたユーザー体験や対話型組織について触れましたが、収集した行動データを基に、さまざまな立場や部門の人たちが集まって議論できる環境を用意することがDX化を進める上で不可欠です。その際に皆が自己開示できて意見を言えるか、理想的なユーザー体験を作るためには、各自がどのように協力しあえるのかを、忖度無く話し合えることが重要になると思います。

その上で必要な人材を外部から採用する際には、なるべく自分たちの組織にはいないタイプで、コミュニケーションや自己開示を厭わない人が重要ではないかと思います。

DX人材にとって重要な能力の一つに「視点転換力」があります。自分の視点から、上司や他部署、協力会社、顧客などの視点に移行することによって、「このチームはこういうロジックで動いてるんだな」とか「この人の視点から見たら、こういう風に見えるんだな」といった理解を深めることによって、全体のバランスを掴む能力を指します。

よく、新規事業で中途採用した人が「今のままじゃダメなんです」とか「どうして、こんなこともわからないんですか」と、前からいる社員に対して言う人がいますが、そんなことを言われて気持ちいい人はいませんよね。複数の接点で統一されたUXを提供できる環境を作るためにも、単に新しいことを推し進めるのではなく、さまざまな相手の視点も含めて、論理を形成できる人がDX人材には求められていると思います。

DXが加速する時代に、ビジネスパーソンに必要なマインドとは

−−それはDXをリードする人材だけでなく、その周囲にいる人材にも重要な能力かもしれませんね。それまでDXと無関係だった職種や業界の人たちにとっても、2021年以降は更に変化が加速することを実感する時代になると思います。まさに変革の真っ只中いる状況で、ビジネスパーソンはどうあるべきでしょうか?

新型コロナ以降、「この先どうなりますか?」とか「どういった変化が今後起きそうですか?」といった質問を受ける機会が増えたのですが、その答えを常に考え、行動に移すことこそがビジネスパーソンの役割だと思います。

コロナ禍でSaaSサービスやビデオ会議などの遠隔コミュニケーションが爆発的に普及した背景には、そういったサービスが勝手にできあがったものではなく、その機会をいち早く捉えて行動し、多くの企業に使ってもらえるようなクオリティに押し上げた人たちの努力があります。

ビジネス面では悪い影響を及ぼす出来事が起きたとしても、それは機会にもなりえます。自分たちが時代の一端を担っていると自覚して、どうすれば正しく変化に反応して、いち早く行動に起こせるかを常に考えられる人材であってほしいですね。

(写真提供:株式会社ビービット)

※本取材はオンラインで実施しました。

 

越智 岳人

インタビュアー・ライター:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト
技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

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