職人の目をDXせよ——外観検査AIとスタートアップの今

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製品の品質を担う外観検査は、製造業におけるDXの中で、最も重要なテーマの一つだ。
しかし、多くの工場では熟練の作業員が長年の経験やスキルをもとに目視で行っている。それゆえ、人材の確保や育成が大きな課題となっている。

 

製造業をバックグラウンドに持つ大手企業やシステムベンダーによる、AIを活用した外観検査ソリューションも存在するが、導入コストが1000万円を超えるため、中小企業には手が出しづらい。また、AIが学習するデータの作成においても、生産ラインの中で適切な撮影環境を構築できず、エラーを頻発させてしまうケースも存在する。

 

一方でこうした課題を解決する技術を開発し、さまざまな業界で実績を出し始めているスタートアップが増えつつある。そこで今回は外観検査AIを手掛ける日本のスタートアップ2社の事例をもとに、製造業でDXを推進するヒントを探りたい。

 

 

目次

 

1.高齢化が加速する町工場はDXを待てない

東京を拠点とする株式会社ロビットはコンシューマー製品から、工場の外観検査AIにピボットしたという珍しい経歴のスタートアップだ。

 

彼らが最初に開発した「mornin’」(モーニン)は、スマートフォンアプリで設定したタイマーと連動して、カーテンを開閉するプロダクトだ。起床時間にあわせてカーテンを開けることで起床を促す。発売当初から多くのメディアに取り上げられ、これまでの累計販売数は5万台を超えるという。

 

この製品を量産する際に関わった工場が高齢化や後継者不足によって、目視による外観検査に苦労しているという話を直接聞いたことがAI開発のきっかけとなったという。画像処理技術の研究や機械学習エンジンの開発に携わった創業メンバーがいたことも開発を後押しした。

 

ロビットは約2年をかけて外観検査AIを開発し、2018年に「TESRAY」というソリューションの提供を開始した。自動車の部品検査では検出する難易度が高いとされる50µm(マイクロメートル)以下の傷を±10µmの精度で推定し、かつ検出精度99%を達成するなど、精度が非常に高いことに加え、不定形な物体にも応用を広げることにも成功。2020年にはナッツや香辛料など指先サイズの食品・農作物にも対応した。

 

キャプション:ロビットが開発したTESRAY(画像出典:プレスリリース)

 

ロビットが外観検査AIの開発に成功した背景には、町工場の危機感を目の当たりにして、一日でも早く開発しなければならないという危機感を抱いたことに加え、その町工場で開発に全面的な協力があったからだ。

 

製造業のDXが進まない理由の一つに、製造業に対するAIベンダー側の理解度の低さがある。AIの学習データ収集一つとってもトラブルは多い。実際に検査する工場内とは違う場所でNGサンプルを撮影するなど、撮影環境やカメラなどのハードウェア面を考慮せずにAIだけで検査を試みると失敗に陥りやすい。導入先の環境や要件を十分に調査し、撮影方法や撮影機材など複合的な観点で解決方法を探ることが、DX導入においては重要だと示している。

 

こうした努力は導入側企業にも求められる。現場の環境や課題を開発側にオープンにし、自分たちもDX開発に参画しているという主体的なマインドが重要だ。特に機械学習を使うAIでは既に述べたように最適な学習データを提供できる環境が重要であり、それはユーザー側の重要なタスクだ。機械学習やAIに精通していなくても、現場の課題と技術を結びつけるためにDX担当者ができることは決して少なくない。

 

 

 

2.オープンソースだからこそ普及するAI

京都に本社を置くRUTILEA(ルティリア)は工場の自動化を支援するソフトウェア「SDTest」をオープンソースライセンスで配布するスタートアップだ。

 

検査機器や装置に「SDTest」を組み込むことで外観検査やピッキングを自動化でき、検査に必要な機器やパーツはRUTILEAが自社生産で販売。これによって、大手ベンダーと同性能のソリューションを5分の1程度の価格で提供している。

 

SDTestを用いて、通常の撮像では難しいスクラッチ傷を可視化したサンプル
(画像出典:プレスリリース)

 

オープンソースはフリーウェアと混同されがちだが両者は似て異なる。オープンソースとはその名の通り、プログラムを構成するソースコードをオープンに公開している。商用、非商用を問わず誰でも自由に利用や改変・修正、頒布することを許諾するものだ。

 

フリーウェアの大半は無償で利用できるが、ソースコードは改変・修正できない。一方でオープンソースは世界中のエンジニアが開発に参加できるので、個人で開発するソフトウェアと比べてソフトウェアの安定性が高まり、社会のニーズが高いソフトウェアであれば継続的なアップデートも見込める。

 

商用面でもオープンソースは利点がある。スタートアップが独自に開発したソフトウェアを大企業が導入する際、その性能やセキュリティ面などを入念に検査することが一般的だ。その際、ライセンスがオープンソースではなく、ソースコードが非開示であると、信頼性が十分に担保できない。実績のある大企業のソフトウェアならともかく、創業間もないスタートアップが開発したソフトウェアは大企業には手が出しづらいのだ。

 

しかし、オープンソースで公開することによって、ユーザー企業自身で機能を検証した上で導入できるので、スタートアップのソフトウェアであっても、内容が評価されれば大企業に導入されるというメリットがある。また、ユーザーが独自に改変したソースコードはその改変履歴を義務付けるライセンスを付与しておけば、さまざまなカスタマイズ版も共有され、より現場のニーズに即したソフトウェアへと進化を遂げる。

 

RUTILEAはソフトウェアを無償で公開する一方で、動作に必要なハードウェアを提供することで収益を上げている。自社生産・流通で提供することで価格も抑えられ、ユーザーは安価にAIを導入できるという双方にとってメリットのある仕組だ。

 

こうした一部をオープンソースにしたハードウェアは珍しくない。全世界で20億人以上が使用しているモバイル端末用OS「Android」は、その最たる例だ。

 

 

 

3.現場視点とユーザーによる最適化がDXを成功させる

2社のスタートアップの特徴はユーザー視点に立ったDXを提供している点だ。製造ラインに入り、現場で使えるAIを開発するロビット。そして、オープンソースと自社生産を組み合わせることで、ユーザーにとって導入しやすいコストでAIを提供するRUTILEA。導入コストが高額とされる外観検査AIだが、その動向は日進月歩で進んでいる。

 

今回紹介した外観検査AIに限らず、近年は顧客側の業界を深く知る人材がスタートアップとして創業するケースも多い。

 

大企業が開発するパッケージ化されたソフトや、大手SIerやコンサルティングファームに莫大な予算を投じて開発を委託するしか選択肢がなかった時代ではない。今のDX担当者に必要なのは、自分たちの課題を解決するために必要なソリューションや技術がどこにあるかを探し出し、自社に最適化する作業をいとわないことだ。

 

世界を見渡せば適材適所でスタートアップと協業するオープンイノベーションが大きな潮流となっている。しかし、それも単に両者を結合させただけで機能するわけではなく、両者をつなぎ合わせるための作業が必要であり、それは未だ人間が担う仕事だ。

 

 

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