ツールだけ入れても変わらない−−DX時代における、真に多様性のある組織とは

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(コミュニケーションロボットを開発するスタートアップ企業「PLEN Robotics」)

企業におけるダイバーシティ(多様性)が先進国を中心に重視される一方で、日本は取り組みが遅れていることが国際社会で指摘されています。経済・政治・教育・保健の4分野における男女間平等を指数化した「ジェンダーギャップ指数」の順位で、日本は153カ国中121位(2019年 世界経済フォーラムでの調査結果)に位置するなど、国際的に見ても「ダイバーシティ後進国」といって差し支えない状況にあります。

企業にとってダイバーシティとは性別、人種、国籍、性的マイノリティーへの配慮が第一に想起されますが、業界内での人材流動が大多数だった業界で、DXのような新しい取り組みを進める場合には、DXで先行する業界の人材や優秀な外国人人材を積極的に受け入れないことには十分に成果が出ません。

経済産業省が2020年9月に発表した「ダイバーシティ2.0」というレポートの中でも、グローバルな競争激化や産業構造変化の加速化、少子高齢化に対応するためにはダイバーシティを重視した経営戦略が必要不可欠であると指摘しています。

それでは具体的に経営者や人事担当者は、どのようにしてダイバーシティ経営をデザインすべきでしょうか。今回はその一例として、コミュニケーションロボットを開発するスタートアップ企業「PLEN Robotics」の共同創業者でCOOの富田敦彦氏に、ダイバーシティを重視した人材戦略を伺いました。PLEN Roboticsは役員、社員、パートタイマー、業務委託メンバーの18人中、海外出身者は6名、女性は8名とダイバーシティを重視した組織作りを重視しています。同社の取組やその背景から、DX時代の組織作りのヒントを探ります。

旧来型の組織を否定することが、多様性につながる

−−PLEN Robotics(以下、PLEN社)が多様性のある組織作りを志向する理由を教えて下さい

結論から言いますと、多様性のある組織や社会という理念に共感して始めたわけではありません。

日本型のハイコンテクストなコミュニケーションを壊していかないと能力がある人を取りこぼす、という危機感が結果として現在のチーム構成になったといったところです。弊社はエンジニアが中心の会社です。エンジニアは喋らずコツコツ自分の仕事に打ち込む職人的なタイプが多いのですが、ここに「ツーカーの仲」とか「阿吽の呼吸」などの「言葉を使わないコミュニケーション」を持ち込むと、仕事がどのように行われたのか、仕様がどのような理由で決まったのかが外からわからない。これだと後からチームに入った人間が仕事をしにくいので、再現性も拡張性もないと気付きました。

海外の人材や女性というエンジニアコミュニティにとっては、タイプの異なる人を加えると説明しないと仕事が進まなくなるので、ブラックボックスが少なくなると信じてやっています。

 

−−富田さんは森ビル、野村證券、バークレイズ証券と大手企業を経て、PLEN社を創業していますが、そうしたバックグラウンドも背景にあるのでしょうか。

勿論です。同族非上場の都市開発会社、上場証券会社、グローバルな投資銀行という順に開かれた職場を経験しました。そもそも、証券会社や投資銀行というのは待っていても仕事は来ない、仕事は自分で作らないといけないという職場です。

自分が何をやっているか、今後どうしたいかを伝えて、かつその内容が納得されると組織や周囲の協力が得られる、一方黙っていると誰からも気づかれず協力も得られない、というポジティブゲームと呼ばれる構造があります。

特に「空気を読む」日本企業と異なり、外資系企業では以心伝心が全く通じません。社内外問わず、きちんと相手に説明して納得してもらうプロセスが必要です。担当者レベルだけではなく、例えばバークレイズではグローバルや日本のトップでも常時発信することを怠らない文化がありました。

デジタル化で変わったことに意識を向ける

−−2020年からの新型コロナウィルス感染拡大を起点に、さまざまな業界でデジタルシフトが加速し、オフィス環境のリモート化から省人化やAIとデータを組み合わせたDX対応に至るまで、急速に変化しています。テクノロジーと人との関わりが更に複雑化する環境において、富田さんが経営者として意識されていることはありますか?

まず、ゲームのルールが変わったことを理解しないといけません。昔は最先端の技術を学ぶには最先端の技術のある場所に行かねばならなかった。今は、例えばディープラーニングの世界でよく使われるプログラミング言語のPythonは中近東にいてもアフリカにいてもインターネット接続さえあれば、独学でも学ぶことができる。実際、弊社で働く海外学生インターンも普通に使っているので、日本に来たその日からプロジェクトに参加できる。一方日本の名だたる企業の人工知能の開発チームと仕事をしたことがあるのですが、彼らはPythonでプログラミングができませんでした。

これはどういうことかというと、地の利とか先行者の優位がなくなったということですね。会社においても、役職による上下関係はあったとしても、先にいる社員があとから入社した社員より偉いわけではないということを理解しないといけない。先行者の優位がないとしたら、ビジネスをやっている限り一生最先端技術を勉強し続けないといけないし、序列とか社歴では組織を管理できないということですね。

私も1年くらい前からPython、Reactなどプログラミングの勉強を始めました。自分自身で1行もコードをかけない人間が、それができる人間に指図したり、仕事を評価したりするのは無理がありますから。自分の作った簡単なプログラムが動かないと、「悪いけど見てくれる?」と社員に頭を下げて教えてもらっています。

 

−−先進国だから、大企業だから優位性があるという側面が薄れつつあるわけですね。デジタル化ではアドバンテージのある外資系企業で得た経験で現在も役立っていることはありますか?

グローバル企業というのは世界中のあちこちで競争をしているので、ドメスティック企業より環境への適応が早い、つまり動きが早いということを実感しました。速いスピードで、複雑化する仕事をしようとすると、一人で仕事を完結させることはできない。必然的にチームワークが必要になります。

では、言葉も文化も違う他人の助けを借りるためにはどうすればいいか?相手の周波数に合わせてコミュニケーションするしかない、ということは外資系企業で学べたかもしれません。先日、外資系企業と私と他の日本企業の間でZoomを使って「日本語」で議論する場があったのですが、外資系企業の方と私だけビデオをオンにしていて、日本企業の方は全員画面真っ黒にして質問もチャット欄にしていました。そうなると自然に外資系企業の方と私との間の会話のみが増えていく。日本の企業しか経験してなかったら、私もビデオをオフにしていたかもしれませんね。

DX時代の組織に必要なのは、フラットな発信力

(PLEN Roboticsの社員。手にしているキューブ状のデバイスは昨年に発売開始したPLEN Cube。人感センサーや音声・画像認識機能などを搭載し、ホテルの無人受付や学校の出欠管理など対面業務のDX化をアシストしている。)

−−なるほど。ツールの使い方一つとっても、文化が違うわけですね。DXの導入に本腰を入れるとなると、異なるバックグラウンドを持つ企業や人材がコミュニケーションすることも珍しくなり、チームのマネジメントや外部との交渉や日々のやりとりにも今までとは異なる配慮が必要になると思います。富田さんが気をつけていることがあれば、教えて下さい。

言葉や文字にして発信することに手を抜かないということには気を配っています。よくサラリーマンの教育で「聞き上手になれ」と言われることがあるのですが、自分が話してもないのに相手が聞き上手になれる訳がない。相手に自分の顔色を読ませるような他力本願なやり方を続けていると結果的に組織が守りに入る一因になると思っています。発信することを続けると伝える力が培われるし、自分が発信すれば相手にも発信することを求めることができますね。

 

−−PLEN社はハードウェア・スタートアップなので、必然的に技術者を中心とした組織構成になるかと思いますが、技術職の多国籍チームをマネジメントする際のポイントはありますか?

今はエンジニアが代表例になっていますが、例えばマーケティングの仕事もデジタル技術が不可欠になっているので、いずれあらゆる職種で国籍は関係なくなると思っています。

ポイントについては、しつこく言う、背景・理由を言う、次に起きることを言う、の3つですね。手品の秘訣に、2回やってはいけない、タネを明かしてはいけない、次に何が起きるかを言ってはいけないというのがあるのですが、この逆です。

人間は忘れる動物なので、言いっぱなしはよくありません。結果が出るまで言い続けないと、自分の責務を全うしたとは言えないと思います。背景・理由、次に起きることについては、例えば「この開発はXX社と提携することを目的としている。看板がない弊社はXX社との提携で世の中に存在感を訴えないといけない。今は実証実験。儲けが少なくてもやる。次に商品化してXX社のネットワークで全国に販売。この段階で収益を実現する。そのために君に手を動かしてもらう必要がある。」など具体的に言えれば仕事のイメージが伝わりやすくなります。

こういう説明をしないで、「いい感じにまとめておいて!」みたいな抽象的な物言いは避けた方がよいです。説明なしに人にアウトプットを求めておいて、あとで文句つけて修正するやり方は受け入れられないでしょうね。その上で、相手にも発信を求める。自分だけ発信していても、コミュニケーションにならないし、自分が発信もしないで「意を汲み取れ」というのもフェアではないので。

多様性のある組織にするために、企業が準備するべきこと

−−今後、DXが後手に回っている業界は、先行して実績を積んでいる業界からのDX人材採用が不可避であり、人材不足から外国籍の優秀な人材を確保する機会も増えてくると思います。そうした人材を受け入れる側として準備すべきことはありますか?

3つあります。まず、説明をすることを習慣化する。例えば給与を「当社規定により優遇」とか、これ何も説明してないですよね。具体的な金額で話をする。

次に、相手も選ぶ立場だと認識する。自分たちが持っていない才能を持った人を迎え入れるということは、こちらから頼んで入って欲しいわけです。そういう人に「志望動機は?」とか聞くのは馬鹿馬鹿しいので、私はそういう質問を止めました。

最後に、デジタル技術は汎用性があるので、人を会社に縛りつける発想も忘れる必要がありますね。社員は会社をキャリアアップのため使う、場合によっては成長機会を求めて、辞めて別の職場で働く権利があります。ある程度のターンオーバーを前提とし、その代わり仕事を属人化せずブラックボックスをなくす努力をする。自分ではこのあたりかな、と思って頑張っています。


以上が富田氏へのインタビューでした。海外人材や異業種人材を招き、男女に関係なく能力のある人材が活躍する組織であるためには、今まで以上に発信することが重要であり、抽象的で一方的な指示ではなく、解像度の高いコミュニケーションが必要だと富田氏は指摘しました。

多くの企業が導入するZoomやTeams、Slackのようなツールは相手が目の前にいなくても、コミュニケーションが図れるという点では便利ですが、以心伝心や空気を読むといった日本独自の文化に固執してしまうと、本質的にはデジタル前の環境と何ら変わりなく、むしろグローバルな競争環境においては不利に働くでしょう。組織をアップデートするためには、まず発信する側のあり方を見直し、実行に移すことが需要だと言えるでしょう。

 

越智 岳人

インタビューアー:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト。現在はフリーランスとして技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

 

 

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