2020年にDX人材採用が進んだ金融・不動産業界の事例から 他業界でも応用できる採用成功のポイントを探る

Pocket

2020年はコロナ禍に覆われた1年でしたが、企業視点でみると、DXが進んだ一年でもありました。昨年(2020年)特にデジタル化が進んだ金融・不動産におけるリアルな採用状況について、両業界を担当するコンサルタントが、2021年の見通しとデジタル人材採用成功の勘所を議論します。

インタビュイープロフィール

川野 龍

Fintechベンチャーの事業開発・エンジニアなどデジタル人材を担当。豊富な実績と経験をベースに、メガベンチャーからスタートアップまで幅広くサポートする。

佐藤 奏子

大手デベロッパー領域をメインとしながらも、不動産テック・コンテックと呼ばれるスタートアップ企業まで幅広く担当。

不動産業界と金融業界、2020年のデジタル人材採用を振り返る

──2020年は、コロナ禍により先の見えない1年となりましたが、急速にDXが進んだ部分もあったと見られています。担当業界の採用動向を振り返ってみて、どのような1年でしたか。

佐藤:私が担当する不動産業界においてデジタル人材の採用が活発なのは、大手デベロッパーが中心です。特に2020年は、DX推進室もしくはIT戦略室のようなデジタル専門の部署を社内に立ち上げた企業が多数ありました。一部には昨年より以前に2020年開催予定だったオリンピック・パラリンピックに向けて部署を立ち上げた企業も多かった印象です。

それに伴って、「新部署の初期メンバーを採用したい」あるいは「採用を強化したい」といったご相談を多数いただきました。採用人数は各社の戦略やDXのフェーズによって異なりますが、大半の企業は1名〜数名でした。ただ、先行してデジタル専門部署を立ち上げていた一部大手デベロッパーでは、十数名単位で採用を行ったところもあります。

デベロッパーのほとんどは新卒採用に力を入れており、中途採用はあまり多くありません。そのためデジタル専門部署も既存の社員で構成されていたのですが、やはりデジタルの知識に限界を感じて外部から採用することを決めた会社様もいらっしゃいました。採用された方の出身業種で一番多いのは大手SIer、もしくは外資系コンサルの方です。その他、事業会社でDXを推進していた方や通信系企業にいた方がデベロッパーへ転職された事例もありました。ポジションとしては、マネージャークラスではなくスタッフクラス、総合職ではなく専任職としての採用が一般的です。

──金融業界の2020年は、いかがでしたか。

川野: 金融のなかでもDXを切り出したFintech系企業についてお話すると、大手〜中堅のWeb系企業がFintechに進出した場合と、既存の金融機関から派生した場合、そのどちらでもない独立系のFintechスタートアップ、という大きく3つの属性に分かれます。結論から申しますと、いずれの属性の企業も2020年は採用熱が高い1年でした。

Web系Fintech企業では、特に決済系の企業にて採用が年間を通して多かった印象です。2019年頃は営業職の採用が盛んでしたが、2020年は企画職やビジネス開発などにも求人職種の幅が広がり、採用ニーズは質・量ともに高い傾向がありました。

金融機関系Fintech企業も採用熱は高かったのですが、緊急事態宣言が明けてから採用ニーズが高まっていった印象があります。緊急事態宣言が発出された当時はリモートワークのためのインフラやツールが社内で整っていなかった企業もあったため、一旦採用を止めて態勢を整え、6月頃から採用を再開した企業がほとんどです。質の面を見ていくと、これまでは採用の要件が業務改善など内向きのDXを行いたいのか、デジタルを使って売上を上げていくDXを行いたいのかがはっきりしていないオーダーが多かったのですが、昨年から方向性を明確に定めて採用する傾向にあります。

独立系Fintechスタートアップは、基本的に1ポジション1名という採用が多いため、全体として採用人数が多いわけではありません。ただ、コロナ禍でも新規に参入する企業は順調に伸びていたため、そこでの採用は例年以上に行われていました。

昨年の夏にも業界の採用動向を詳しくお話しましたが、こちらも参考になると思います。

 

2021年のデジタル人材採用はどうなる?

──2021年、それぞれの業界でデジタル人材の採用はどのように進んでいくとお考えですか。

佐藤:不動産の領域では、昨年ある程度の人数を採用した企業では、恐らく採用活動は一旦落ち着いて、今年は入社者のオンボーディングに力を入れる期間になるのではと思います。一方、昨年の採用人数が数名程度だった企業では追加で採用するかどうかの見極めの年になりそうです。

私は、不動産業界に近しい建設業界も担当しているのですが、建設業界はDXが進んでおり、数年前にデジタル専門部署を立ち上げ、すでに事業が軌道に乗っている企業が多くあります。恐らく不動産の領域においても大手デベロッパーを筆頭に同じような道筋をたどると考えられます。ですから、今年デジタル人材の採用が全くなくなるということはなく、昨年採用した方の立ち上がりの状況を見ながら、今年または来年以降、追加で採用していく動きが必ず出てくると思います。

 

──Fintechの領域ではいかがでしょうか。

川野:総じて、採用は活況のまま進むと見ています。昨年から引き続いた傾向ではありますが、特に証券・保険などの金融機関では、新型コロナの影響で対面チャネルでの営業・販売が難しくなっており、そこをデジタルで代替することが急務となっています。そのため、WebマーケティングやCRMを理解している人の採用ニーズが非常に高まっています。

MA(マーケティングオートメーション)の導入やCRMの構築に当たり、大きな戦略を描き、設計に落とし込める上流を担える人も必要ですし、具体的にそれを運用する担当者となるメンバーレベルの人材も求められるようになると思います。

また昨年、金融業界ではセキュリティに起因する大きなインシデントがあり、セキュリティやAML(アンチマネーロンダリング)関連の募集も増えていくのではないかと考えています。この分野では、セキュリティコンサルティング会社での経験者、事業会社のIT部門でセキュリティを担当されていた方の採用ニーズが高まる傾向にあります。

 

同業種から採用すべきか、異業種も視野に入れるべきか

──どのようにすればデジタル人材の採用が上手くいくか、昨年から今年にかけての採用事例なども踏まえて教えていただけますか。

川野:先ほどお話したように、金融機関系Fintech企業からWebマーケティングを理解している人を採用したいというオーダーをいただくケースが増えています。実際に採用に至っている方を見ても、金融業界以外から採用してご活躍されているケースの方が圧倒的に多いです。

企業から求人のご相談をいただく時点では、、「金融機関の経験者が欲しい」と言われることが多いのですが、話を掘り下げてみると、業界経験者が必要だという明確な根拠はなく、先入観で「やはり業界経験者がよいだろう」と思っていらっしゃることが少なくありません。しかし、「同業種の経験者」という条件を付けてしまうと、アプローチできる母集団が少なくなり得策とはいえません。

金融業界以外からマーケターの方を採用された実際のケースを見ても、SEOなど含めたWebマーケティングのスキルがある方や、CRMに強い方であれば、過去に扱っていた商材とは違っても能力を発揮されています。ですから、先入観なく採用ターゲットに含めることが重要だと思います。

佐藤:その点、不動産業界でデジタル人材を採用するときは、異業種の方をターゲットにするがほとんどです。その理由は「組織に新しい風を吹き入れてほしい」。この一言に尽きます。背景には、国内の不動産の開発は頭打ちになっている中で、従来のビジネスモデルだけでは成長に限界が見え始めている、だからこそ異業種から斬新な発想を持ち込みたいということなのだろうと私は理解しています。

ただ、異業種から採用するからこその難しさもあります。例えば、デベロッパーに限らず優秀なデジタル人材は他業界の企業にとっても欲しい人材です。そうすると、より給与水準の高い大手総合商社と採用競合になったり、不動産の旧来的な業界イメージを理由に他業界を選ばれてしまったりすることがあります。また、大手デベロッパーでは、マネージャークラスでの採用はなく、入り口は専任職として採用するケースが多いため、転職後のキャリアの観点で難色を示される方もいます。

そこで、いかに負の部分を払拭し、不動産業界の魅力を訴求していくかが重要になります。不動産業界は、人が生きる上で欠かせない衣食住の「住」を担う業界です。また、ビジネスをする上でもオフィスを用意したり、人が集まる空間を創ったりするのも不動産業です。転職希望者の方には、多くの人々の生活や活動にインパクトを与えられる不動産業界の仕事のやりがいや魅力をお話しています。実際、DXがこれからの業界だからこそ、活躍できる余地も可能性も大きい点をお伝えして、ご入社を決められたケースも多くご支援しました。

川野:Fintech業界も同じで、特にマーケターの採用は他業界と競合になります。そこで、金融業界でDXに参画することを、いかに魅力と感じてもらえるかが、採用成功の鍵になると思います。

 

デジタル専門組織をどうつくるか、責任者を外部から採用するメリット

──デジタル人材を受け入れる組織は、どうあるべきでしょうか。

 

佐藤:不動産業界では、先ほどの「異業種からの採用」とも関連して、多くの転職者が「自分は不動産業界の経験がないけれども大丈夫だろうか?」という不安を抱えて入社されます。特に新卒文化の強い大手デベロッパーでは、1名〜数名の単位で中途入社した人が社内で居づらいと感じる、あるいは本領を発揮しにくい環境になってしまう可能性がありますが、それは最も避けたいことです。ですから、受け入れる側としては入社者が不安を乗り越えて挑戦しようと入社してくれたのだと「理解する」ことが第1ステップだと思います。

川野:DXを推進する上では、前例にとらわれない組織づくりをどう実現するかが、ポイントになると思います。金融機関系のFintech企業では、数年前からデジタル専門組織を立ち上げたり、場合によっては別会社を設立したりして着実に投資をして企業があります。そうした企業を見ていると、デジタル人材の採否を適切にジャッジできる人がすでに社内にいることが、後続の採用成功につながり、デジタル化を加速する原動力になっていると感じます。まだ専門組織のない企業にとっては、専門組織を立ち上げること自体が重要な課題だと思います。

その際、最初に専門組織のトップとなるCxOクラスの責任者を異業種から招く形で採用するほうが、その後のメンバーの採用も、DX事業推進も進むのではないかと考えています。外部からトップを招いた場合、既存の組織との間でハレーションが起こるリスクもあると思います。ただ、すでに専門組織を設けた企業の例を見ていると、他社で実績あるトップを外部から採用することによって、DXのスピードが2倍〜3倍のレベルで加速する企業が多いように思います。「社内にいる人材をトップに据えたい」とお考えの企業もあるとは思いますが、成長スピードを得られるというメリットにも目を向けていただきたいと思います。

佐藤:不動産業界は、年功序列の考えが根強い企業が多く、デジタル関連以外の一般的な職種でも、マネージャーを中途で採用するケースはほとんどない業界です。すぐに変わることは難しいかもしれませんが、少なくとも他業種のDXの成功事例や、成功をもたらす採用の考え方を取り入れていく動きは、デベロッパーにも今後必要になってくるのではないかと思います。

 

 

畑邊 康浩

ライター:畑邊 康浩

編集者・ライター
語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。
2016年1月からフリー。HR・人材採用、IT関連の媒体での仕事が中心。

 

 

DX事例、最新トレンドの新着記事を
ソーシャルメディアで受け取ろう

→twitterアカウントをフォローする
WP Twitter Auto Publish Powered By : XYZScripts.com