ITインフラエンジニアの「ハイブリッド型キャリア」という選択肢

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インタビュイー

山川 峻広

2019年新卒にて、JAC Recruitmentへ入社し、一貫して外資系ベンダー、とりわけインフラ、クラウドを専門にご支援。直近は、日系SIerやコンサルティングファーム等も幅広く担当。

企業がITインフラにパブリッククラウドを利用することが当たり前になり、ベンチャーから大企業に至るまでクラウドサーバーの運用経験があるエンジニアの需要が高まっています。

その一方で、従来からのオンプレミス環境での経験と、クラウドの経験を併せ持つハイブリッド型のITインフラエンジニアが業界を問わず活躍することが見込まれています。
日本国内のITインフラエンジニアの動向や先々を見越したキャリアパスの描き方などを、JACリクルートメントのコンサルタントが解説します。

クラウドへ移行する日本のITインフラ環境の現在

現在、国内のITインフラエンジニアの約8割がサーバーやソフトウェアなどの情報システムを自社で運用する、いわゆる「オンプレミス(on-premises)」経験のみを主なキャリアとしています。
一方で数年前から米国で「ビッグ・テック」※1と呼ばれる大手IT企業がクラウドコンピューティングサービスを開始したことで、企業のITインフラにクラウドという選択肢が生まれました。

※1ビッグ・テック…Google,Amazon,Facebook,Apple,Microsoftの5社を指す言葉。各社の頭文字を取ってGAFAMと称することもある。

日本国内の大企業が、AmazonのクラウドコンピューティングサービスであるAWS(Amazon Web Services )を導入する事例が出始めた辺りから、GoogleがGCP(Google Cloud Platform)の提供拠点に東京を追加、MicrosoftもAzure(Microsoft Azure)という名称でクラウドコンピューティングサービスに参入するなど、 クラウド環境に移行する下地が整い始めました。

こうした変化を受け、日本でもクラウドを前提としたITインフラに移行する流れが加速すると同時に、クラウドサーバーの導入や運用経験を積むエンジニアの数も増加傾向にあります。

自社内に物理的なサーバーを構築するオンプレミスは数億円規模の初期コストが必要になり、運用の負担も大きいのに対し、仮想サーバーを重量課金制でサービスを利用できるクラウドは初期コストも低く運用の負担も低いのが特徴です。特に従業員規模が1000人以下の企業では、コストや運用面でのメリットが非常に大きく、移行しない理由がない状況です。
この1~2年で製造業や流通、小売業の大規模な企業もフルクラウド化が続きました。あらゆる運用業務がリモートで対応できることもあり、コロナ禍による在宅勤務の促進もクラウド移行を後押ししています。

ITインフラエンジニアに求められるスキルセットの変化

こうした変化に伴って、ITインフラエンジニアに求められるスキルセットも変化しています。
簡単に言うと、オンプレミス環境だけのキャリアだけでなく、クラウド環境に関する知見や経験も重視されるようになったのです。

それでは、これからクラウドでの経験を積みたいITインフラエンジニアは、どのようにアクションを起こすべきでしょうか。AWSやGCPなどの技術仕様習得者や、クラウドサービス事業者が認定する資格保有者が歓迎されるのは言うまでもありませんが、それ以前に重要なのは両者における運用スタンスの違いを理解することです。

オンプレミスではインフラ事業者や社内のインフラ部門がユーザーの要望をくみ取ってオーダーメイドのように構築するのに対して、クラウドではサービス事業者側の都合が優先されます。インフラ全体がサービス事業者の管理化にあり、オンプレミスと異なりカスタマイズにも制約があります。

そのため導入段階では、クラウドが提供するサービスや機能などの理解に加え、クライアント側の都合や仕様をサービス事業者側に合わせてもらう強い提案力が求められます。特にエンジニアにとっては、こうしたクラウドの特性を理解しながら、移行したことで望ましい結果を達成できるよう支援する「カスタマーサクセス」※2の能力が重要になるのです。

※2 カスタマーサクセス…主にクラウド業界で用いられる概念。システムを導入するだけでなく、継続的にサービス利用する中で業務改善を支援していくサービスモデルのことを指す。

クラウドの従量課金システムはユーザーにとってはメリットの大きい仕組みですが、サービス提供側から見れば、一定の成果が出なければ離脱されやすいというリスクがあります。導入後に堅実な運用を行うことで、長期的な運用が見込めるオンプレミス環境と違い、クラウドは現状維持だけではなく、クラウド環境の拡大や付随するサービスの追加導入など、能動的に提案するコミュニケーションが大切になります。

オンプレミス+クラウドの「ハイブリッド型キャリア」

それでは今後、ITインフラエンジニアはオンプレミス環境のキャリアは不必要で、クラウドの経験だけが必要とされるかというと、そうとも限りません。

近年は大企業が大規模なオンプレミス環境からクラウドへ丸ごと移行したいというニーズが高まっています。クライアントのニーズに合わせて、サービス各社は大規模なクラウド移行に対して、専用のプライベート領域を割り当て、なるべくクライアントに合わせたサービスを提供する「プライベートクラウドサービス」を提供し始めています。プライベートクラウドにも各社によって特徴の違いはあるものの、移行前のオンプレミス環境と遜色ない環境が構築できることに加え、障害対応にも柔軟に対応するのが特徴です。

プライベートクラウドサービスへ移行する際、大規模なオンプレミスではどのようなカスタマイズが行われ、どのようにセキュリティや運用環境が設計・構築されてきたのかという現状把握に強い人材が必要であり、それにはクラウド側の経験だけでなく、オンプレミス環境側の知見や経験も必要となるのです。

また、今後は機密性の高いデータを扱う業務の基幹系システムはオンプレミス環境に、情報系システムはクラウドに置くなど、双方のメリットを組み合わせた「ハイブリッドクラウド」の利用も拡大すると見られています。
オンプレミスだけ、クラウドだけではなく、両方を知るITインフラエンジニアが活躍する場面は今後増えていくでしょう。

ハイブリッドなエンジニアになる方法

国内の多数派である、オンプレミス環境のみの経験を持つITインフラエンジニアが、クラウドの経験を積むには3つの方法があります。

1点目は資格を取得することです。Azure、GCPのほか、今のところもっとも汎用性が高いのはAWSの認定資格です。レベル別、役割別、専門知識別に分かれていますが、「ソリューションアーキテクト」のアソシエイトかプロフェッショナルまで取得しておけば、構築の経験がなくてもクラウドに関する業務に携わりやすくなるでしょう。
また、『今の勤務先ではクラウド関連のプロジェクトが無い』という場合でも、社内勉強会を開いて同じ関心を持つ同志を集めたり、資格取得の中で得た知識を生かしたりして、小規模な案件でクラウド導入を提案するなど、ムーブメントを起こす努力を地道に継続することも効果的です。

2点目はハイブリッドクラウドの需要を見越して、オンプレミス環境の経験を重視するクラウド関連のプロジェクトに手を挙げることです。大手のITベンダーに所属しているITインフラエンジニアであれば、1点目の資格取得をした上で、ハイブリッドクラウド関連のプロジェクトに参加できるよう働きかけるという方法もあります。また、外資系コンサルティングファーム傘下のITベンダーなど、ハイブリッドクラウドに関する案件を多く抱える企業に転職するのも一つの選択肢です。
どちらにしても、チームに加入した後のトレーニングで実務に必要なノウハウはキャッチアップして、経験不足を補っていきましょう。

3点目はクラウド主体のwebアプリなどを開発するベンチャーや、クラウド上でwebサービスの運用を行う企業で経験を積むことです。経験不足から入社時の年収が一時的に下がる可能性は否定できませんが、クラウド環境に特化したITベンダーで数年間しっかり経験を積むことによって、ハイブリッドクラウドに対応したエンジニアへキャリアアップできるでしょう。

オンプレミス環境からクラウドへ移ろうとするITインフラエンジニアは、この3年ほど増加傾向にあります。各社の認定資格の認知度も上がり、経験を問わず取得する人も増えています。

オンプレミス環境の経験のみのITインフラエンジニアが、クラウドでの経験を積むための具体的なアクションを紹介しましたが、時期を問わず自分のこれまでのキャリアを棚卸しするようにすることも大切だと思います。具体的には職務経歴書などのレジュメを作成するのをお勧めします。レジュメというと転職を想起しがちですが、転職する・しないに関係なく、自分自身のスキルを可視化するだけでも強みや課題が浮き彫りになり、何が自分に必要かを考えるきっかけになるように思います。

まずは自分自身を客観的に見つめた上で、自分の環境と照らし合わせながら、小さくても確実なアクションから始めることをお勧めします。

(文:花城恵巳)

 

 

越智 岳人

インタビュアー:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト
技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

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