アメリカ在住投資家に聞く「DXに対するアプローチは、大企業もスタートアップ的であるべき」

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キャプション:関氏が拠点を構えるアメリカ・ニューヨーク市。近年はIT分野だけでなく、ハードウェア・スタートアップを生み出す都市として注目されている。(写真提供:Monozukuri Ventures)

DX分野のスタートアップ創業者が、各界の経営者にDXの最前線について伺うシリーズ「経営者から見たDX人材最前線」。

3回目はアメリカ・ニューヨーク在住でハードウェア・スタートアップへの投資を行うベンチャー・キャピタル「Monozukuri Ventures 」の共同創業者である関 信浩氏へのインタビューをお届けします。

 

インタビューイー

関 信浩氏

Monozukuri Ventures 代表取締役 COO。
1969年、東京生まれ。1994年、東京大学工学部卒。2001年、ロンドンビジネススクールの起業サマースクールに参加。2002年、カーネギーメロン大学経営大学院卒。
1994年から2003年まで、日経BP社で編集や事業開発に従事。2003年にSix Apartに初期メンバーとして合流し、日本法人社長やCEOを歴任。
2015年にニューヨークでFabfoundry(現Monozukuri Ventures)を設立し、日米で開催するハードウェア・アクセラレーターMonozukuri Bootcampや、ピッチコンテストMonozukuri Hardware Cupなどを手掛ける。2020年1月のFabfoundryとDarma Tech Labsの経営統合により現職。

 

アメリカから見た日本の今

−−まず、日本のベンチャー・キャピタル(以下、VC)の投資家として、ニューヨークを拠点に活動している関さんから見て、現在の日米それぞれのものづくり企業をどのように見ているのか、関さんの役割はどのようなところにあると考えていますか?

日本のスタートアップへの投資はSaaS系サービスが中心で、多くのVCが資金回収までのタームが短いSaaSに投資しています。逆に資金回収のタームが長く、初期投資の負担が大きく、ハイリスクなハードウェア・スタートアップへの投資には消極的です。この状況はアメリカでも同じで、コロナ禍においてハードウェア・スタートアップは倒産リスクが高いと見なされています。

しかし、製造業が世界から無くなることはありませんし、世界の工場と呼ばれた中国は、ハードウェアにも投資し、その勢力を拡大しています。その中国とアメリカとの関係が悪化している中で、アメリカのハードウェア・スタートアップのパートナーとなりうるのが高い技術力を持つ日本の製造業なのですが、コロナ禍もあって日本経済が非常に内向きになっています。

今後日本の製造業大手が国際社会で生き残っていくためには、優れた技術を持つ世界中のスタートアップとの提携は避けられませんし、アメリカのスタートアップは数と質から見ても最有力候補の一つでしょう。
しかし、現状のままでは両者がつながる機会は失われていく一方です。
私としては単にスタートアップに投資をするだけでなく、両国の橋渡しになることに存在意義を感じているところです。

 

−−コロナ禍で日本でもDXに対する意識が高まっています。例えばDXという観点から先行しているアメリカのスタートアップと日本企業とのオープンイノベーションは起きるのでしょうか。

私たちはBtoB市場のハードウェア・スタートアップへの投資を通じて、製造業がいずれ直面する課題をいち早く把握し、それを本気で解決しようとするスタートアップへ投資してきました。
コロナ禍でサプライチェーンが分断された際には、日本の企業から私たちに相談が押し寄せ、実際に出資先のスタートアップを紹介しています。

アメリカは昨年の段階で死者が25万人を超すなど、日本とは比較にならないくらい新型コロナウイルスの影響が大きかったので、あらゆる業界で仕事のやり方を変えざるをえませんでした。
サプライチェーンも機能不全に陥り、工場も停止。ロックダウンした都市では対面販売もできない。何ヶ月も売上ゼロという状態が続いて、本質的な変革をした企業しか生き残れない環境です。

ただ、アメリカは淘汰してもいいから早く回復しようという志向が強い国です。
FacebookやTwitterなどの企業は2008年のリーマンショック後の不況を乗り越えて大きくなりました。今回の危機を乗り越えたスタートアップこそが次世代に飛躍すると思っています。

その可能性を持つスタートアップが日本企業の課題を解決できるよう、後ろから支えていくことが、私たちのようなハードウェア・スタートアップに特化したVCの責務だと思います。

 

キャプション:Monozukuri Venturesが投資するスタートアップの一例。アメリカに拠点を置くProteus Motion社はAIを搭載したトレーニング支援マシーンを開発している。メジャーリーグでも同社の機器が導入されるなど急成長している。

アメリカのビジネスパーソンでも議論の分かれる、ITツールの使い方

−−関さんは現在ハードウェア・スタートアップへの投資をしていますが、その前はソフトウェア業界でのキャリアを長く積まれていましたよね?

私は元々、日経BP社で日経コンピューターの記者をやっていました。ドットコムバブル(※1)の最中の1998年にサンノゼに駐在しました。
ただ、私は理系出身でIPO(新規上場株式)という単語すら知りませんでした。

そこで、ビジネスを学ぼうとカーネギーメロン大学のビジネススクールに通いました。
その後2003年にSix Apart(※2)の3人目の社員として参加し、日本法人の社長やソフトウェア部門の責任者をしていました。事業の柱はブログ記事のサブスクリプションと広告でしたが、広告ビジネスの方がスケールするということで2011年にサブスクリプション部門を売却し、その事業の社長として新会社に移りました。

※1 ドットコムバブル…1990年代前半から2000年代前半にかけて、アメリカの新興IT企業を中心に、実績とは関係なく株価が高騰した現象。
※2  Six Apart…ブログやウェブサイトの更新・運営に使用されるCMSにおける老舗企業。2003年にアメリカで創業。

 

−−関さんのブログ を拝見すると、15年ほど前からビデオ会議ツールのPolycomを使って日米間の社員の交流を促進するなど、すでにデジタルツールを使いこなしている様子です。今回のインタビューのオファーでも、関さんはオンライン上でカレンダーの空き時間にミーティングを入れられるwebサービスを使っていました。アメリカでは、そのようなツールは普通に使われているのですか?

Six Apartは日本市場での売上規模が大きく、私も日本で仕事をしていました。しかし、アメリカ本社とのちょっとしたコミュニケーションがしにくかったのがPolycomを買ったきっかけでした。

最近ではAIが秘書を代行するツールもあります。なんか馴れ馴れしいなと思いながら会話していたら相手がAIだった、なんてこともあります。コロナ以前からデジタルツールはありましたが、感染拡大でリモートワークが日常化してから、アメリカでも一気に浸透しました。

ですが、実は新しいツールに対する抵抗感はアメリカ人にもあります。例えばミーティング日時を調整する際にスケジュール管理ツールで自分の空いている時間をあらかじめ共有して、相手に選んでもらうなんて失礼じゃないか、という議論はアメリカ人の間でもあります。

 

−−以前、私が大企業で働いていた時は、役員など意思決定権者には毎日ものすごい数のアポの申し込みがあって、それを敏腕秘書が前後の予定を少しずつずらして予定を調整するということをしていました。デジタル化が進むとそういう敏腕秘書の仕事がなくなると思いますか?

敏腕の秘書というのは、デジタルツールではカバーできないスキルを持っていますから、人間の仕事をそっくりそのままデジタルに代替はできないでしょう。
ただし、人間の80%くらいの質で許容できるなら、月3000円程度のツールでカバーできるでしょう。

私は、オンラインでのミーティングは30分以内と決めています。そうすると1日に膨大な数の打ち合わせが入ります。
アジェンダを整理したり、会議内容を振り返ったりする時間がないと夜になる頃には朝のミーティングの内容は忘れてしまいます。そこで私はミーティングの間は15分の空き時間を入れるようにしています。急な連絡があってもその15分で対応できますし、30分程度の休憩もあえて設けることで、仕事の効率は劇的に変わります。ツールに自分をコントロールされるのではなく、自分自身がコントロールできる時間を作らないとクリエイティブな仕事はできません。

 

−−次にアメリカのビジネスに関するイベントについてお伺いします。感染症対策でなかなかオンサイトのイベントがないのでウェビナーが多いのは日米で変わりませんが、内容はどうでしょうか?例えば議論は対面でのほうが活発になる気がしています。日本のウェビナーはみんながビデオオフにして質問もテキストベースが多いように思います。

アメリカの場合はみんなが話しすぎるから、むしろ発言はチャットに限る、と言うケースもあります。一方で、ハプニング的な要素から面白い情報が出てくることもあります。
特に質疑応答の時間は面白い内容であることが多いので、むしろ講演部分は録画を早回しに見るというぐらいでもいいと思います。

日米の違いということでは、例えば日本の大組織だと手を上げて話すことを良しとしないカルチャーはあるのかもしれませんね。また、ビジネスマン個人レベルでも自分をPRしていくことに慣れていないということもありそうです。

 

−−そうですね。私が昔勤めていた会社で、当時アメリカの金融機関の社員が皆スーツを着なくなったことを知った役員が「明日から服装はカジュアルでいい」と言ったら、社員がみんな「どうする?どうする?」と探り合わせて、結局翌日ほとんど全員がスーツで出社してきた、という経験があります。アメリカで流行になっているツールであっても文化の違いで日本での使い方に違いが生じるということはありますか?

スーツの人もいれば、私服の人もいる。つまりいろんな人がいるというのを認識するのは日本人が今まさに苦しんでいるところかもしれませんね。
ツールにしても、SNSはプライベートなサービスという価値観を組織単位でアップデートしないと、いくら個人がマーケティングツールとしての可能性をSNSに感じたとしても、その成果を十分に引き出すことはできないでしょう。

日本企業の中には未だにオフィスからGoogle docsやFacebookにアクセスできないところもあります。オンラインでのコラボレーションやデジタル化したユーザー体験を十分に得られないまま、そういったツールやアプリありきでデジタル化を議論するというのは、画竜点睛を欠く考え方では無いでしょうか。

シリコンバレーの起業家やエンジニアは、自ら感じている不便を解消するためにサービスを生み出している背景があります。最低限の機能を持つものを作ってみて、試してみて直すというサイクルを経て成熟した状態のツールを私たちは利用しているわけです。

単純に海外で流行しているから飛びつくのではなく、自分たちの課題を明確に定義し、それを解決するためにはどんな機能が必要なのか。それを実際に利用できるツールはどこにあるのかというプロセスで考えないことには「創造する側」と「消費する側」の差は一向に埋まらないでしょう。

 

合理的な決断を最短で導き出す発想を持てるか

一般的にアメリカ人は思いついたらすぐ実行に移すという傾向があります。私も以前に反応が悪いなと思ったミーティングについて、Google formで匿名回答できるアンケートを作成して参加者に送ったら15分後には回答が集まりました。そうやって意味のないミーティングはやめる、満足度の高いミーティングは続ける、ということをやっています。

 

−−Zoomを使うようになってから日本のビジネスパーソンも会議の進行が上手になってきた印象があります。目的がはっきりしない会議も減りました。ただ、重要なことは先送られて決定されていないという実感は未だにあります。私の中では「社内でシェアします」で会議が終わったら、その先は無いと悲観しています。

それは、日本企業がシリコンバレーに訪問するときも同じですね。さすがに視察とか表敬訪問だけというものは無くなりました。ただ、事前にアジェンダを用意して、その場では活発な議論になるのに、結局その場で何も決まらなかった。それどころか、その後の連絡が無いというケースはまだありますね。

ITジャイアントのような外資系企業が日本に進出して、優秀な経歴で英語も堪能な方を採用する。ところが会議の場で「次回までに考えてきます」という、日本企業と同じ態度では試用期間までで本採用に至らない、というケースがあります。持ち帰るというのは第三者の意見を聞こうとしている、つまり自分で決定しようとしていないということですね。

日本企業がDXを推進する上でも同じことが言えるのではないでしょうか。つまり、データを収集し、AIを活用するなどプロセスだけを効率化させればいいものではなく、正しくタイムリーに決定するプロセスがあるからこそ、DXの存在意義があるわけです。 何のためのDXか?ということから、日本企業は始めるべきだと思います。

 

−−それでは日本企業が本質的な意味でのDXを推進するためには、どのようなアプローチから取り組むべきだと考えていますか?

投資先のスタートアップにも何度も繰り返して言う話ですが、彼らは投資家や企業にプレゼンテーションする際に解決したい課題や問題を提起し、それに対するソリューションについて話すのが主です。

アメリカでも、ほとんどのスタートアップはソリューションの話に多くの時間を割きがちなのですが、課題を深堀りしていないソリューションや、課題とつながらない技術を聞いても全く共感できません。単に「こんな事ができます」と言われても「だから?」となりますが、「こういう課題を解決したい」となると、共感できたときにソリューションが魅力的に見えるわけです。

潜在的なものから、既にある事が当たり前になり過ぎて見過ごされているものまで、何をイシュー(論点・課題)と捉え、どういう解決するのか、というのがスタートアップ的な視点のあり方です。企業の経営者の中には取り組むべき課題が見定められていなくて、ツールありきになっているケースが少なくありません。

「DXが流行っているから、何かできることを考えろ」というアプローチではなく、自分たちのイシューを掘り下げることから始めること。それは自前でできるのか、外に解決策を求めるのか、「こういう形でDX化すれば解決できるのではないか」という道筋で考えるべきだと思います。

DXは目的ではなく手段・方法でしかありません。まずは根本的な問題は何なのかを認識し、自らそれを解決するために行動すべきです。痛みも課題も共有できない外部に最初から丸投げするというのも、もっての外です。イシューを発見するというのは、自らの矛盾や弱点を指摘するという意味で、時に自己批判を伴います。しかし、そこから逃れていては前進できません。大企業にしてもスタートアップにしても、イシューの定義が甘い企業は早々に市場から撤退することになります。

そもそもスタートアップは社会のイシューを定義し、それを解決するMVP(Minimum Viable Product:価値を実現する必要最低限の機能を持った製品)を走らせて、仮説検証と改善を繰り返し、PMF(Product Market Fit:開発した製品が市場に適合した状態)を実現することで大きく成長します。この流れは企業のDXにおいても全く同じです。ツールから入るのではなく、イシューを定義して、MVPとしてのソリューションの中にDXがあるなら導入して、仮説検証と改善を繰り返すというアプローチで進めるべきでしょう。

 

ライター:富田敦彦

バークレイズ証券や野村證券他、国内外の金融機関投資銀行部門で、新規ビジネスの立ち上げ、リスク/リターン分析に基づく金融商品開発及びデリバティブス、証券化商品などのトレーディングに従事。
2017年にPLEN Robotics株式会社を共同創業。取締役COOとしてアライアンス、セールス&マーケティング、ビジネス・デベロップメントを担当。

 

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