多様性のある社会に向けてー企業のLGBTQ+に対する取り組みについて考える

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近年、LGBTQ+などの多様性を尊重する動きが社会全体に広まっています。
経済界においても、さまざまな業界において、すべての人々が働きやすく、多様性を尊重する働き方を実現するための取り組みを開始しています。

 

国連が定めたSDGs(持続可能な開発目標)の17の目標の1つにも「人や国の不平等をなくそう」が掲げられています。今回は、LGBTQ+にフォーカスし、理解の促進やサポートに向けた企業の取り組みについて考えます。

 

 

目次

 

 

デジタル・IT業界のみならずあらゆる業界で、多様性(ダイバーシティ)を受け入れ、さまざまなバックグラウンドの人々にとって働きやすい職場の実現に向けて、意識的に力を入れ始めています。

 

 

日本経済団体連合会(経団連)は2017年に「ダイバーシティ・インクルージョン社会の実現に向けて」という報告書を公表しました。

 

この中で、経団連は「ダイバーシティ・インクルージョン社会を実現する上で 重要なファクターの1つであるLGBTQ+に焦点を当て、 適切な理解・知識の共有と、その認識・受容に向けた取り組みを推進すべく提言する」として、会員企業の取り組みの動向や事例などをまとめています。加えて「LGBTQ+への企業の取り組みに関するアンケート」(2017年3月実施)の調査結果を報告書に記載しています。

 

この調査では、「LGBTQ+の施策に企業が取り組むことが必要だと思うか」という質問に対して、91.4%の企業が「必要だと思う」と答えています。また、「何らかの取り組みを実施しているか」という質問に対して、42.1%が「既に実施」、34.3%が「検討中」と回答し、4分の3に達する企業が既にLGBTQ+に関して何らかの取り組みを実施または検討している実態が明らかになりました。

 

ただ、LGBTQ+についての概要を理解していても、企業として具体的に取り組もうとする時、どのようなアクションがあるのかを知らない人は多いのではないでしょうか。以降では企業がLGBTQ+に配慮する取り組みとして具体的にどのようなものがあるのかを、事例を交えて紹介していきます。

 

 

1.企業の取り組みは、制度面・設備面・職場環境面の3つ

企業が取り得るアクションとしてさまざまなものがありますが、大きく分けると「制度面」「設備面」「職場環境面」の3つの取り組みがあります。

 

1-1.制度面の取り組み

制度面の取り組みとは、社内規定やルールとして差別禁止を明記したり、福利厚生などの制度面で特定の属性の人にとって不公平がないようにしたりする取り組みです。

 

社内規程・就業規則などにおける差別禁止の明示
社内規程とは会社のルール・決め事を明文化したもので、定款や企業理念を定める内容のものから、組織図や職務権限規程、安全衛生管理や文書の取り扱いなど総務関連の規程のほか、就業規則や給与に関する人事労務系の内容のものなどさまざまな規程があります。

 

先にご紹介した経団連による「LGBTQ+への企業の取り組みに関するアンケート」では、「何らかの取り組みを実施しているか」の問いに「既に実施」または「検討中」と答えた企業に対して取り組み内容を聞いていますが、その中で最も多かったのが「性的指向・性的自認等に基づくハラスメント・差別の禁止を社内規定に明記」(75.3%)でした。

 

倫理行動規範、行動指針といったものに記載する企業や、就業規則の服務規程に記載する企業のほか、全日本空輸のように「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を打ち出して経営としての姿勢を強く打ち出すケースもあります。

 

人種・国籍・年齢・性別・出身・宗教などに基づく差別を禁ずるのと同様に、性的指向・性自認に基づく差別禁止を規定に明文化することは、企業としての基本的な考えと姿勢を示すことであり、LGBTQ+に関する取り組みのベースとなるものといえるでしょう。

 

 

福利厚生の制度の整備

制度面の取り組みには、規程への明記のほかに、福利厚生制度の整備があります。
福利厚生とは、企業が従業員に対して賃金・給与にプラスして支給する非金銭報酬のことを指しますが、福利厚生の一部には、その対象が従業員本人だけでなくその配偶者や家族に及ぶものがあります。例えば、配偶者や子どもがいる社員に対して家族構成や人数などに応じて一定の金額を支給する家族手当や、家賃補助などの住居に関する手当、結婚・育児・介護・慶弔休暇などの休暇制度がそれに当たります。

 

現状の日本の法律では同性との婚姻は成立しないため、同性をパートナーする人は、従来の法的な婚姻関係に基づくこれらの福利厚生を受けられないことになります。そこで、企業として独自に、従業員の同性パートナーを配偶者とみなし、異性婚姻の場合と同じ福利厚生を受ける権利を付与する企業が増えています。特に呼称がない場合もありますが、「パートナーシップ制度」と呼ばれることが多いようです。

 

日本IBMでは、2003年に人事にカミングアウトしたLGBTQ+の従業員が1名いたことから、当事者グループと人事が連携して制度改革を行っている企業です。2012年から結婚祝金の給付対象を事実婚に拡大し、その際に同性のパートナーとの事実婚も対象に含めました。2016年には、この方針をさらに強化し、従業員が「配偶者と同じ」と考える同性のパートナーを登録する「IBMパートナー登録制度」を日本IBM独自に新設しています。

 

福利厚生に関しては、パートナーシップ制度以外にも、トランスジェンダーの人を対象に性別適合手術を受ける際に有給休暇を利用できるようにするといった取り組みもあります。

1-2.設備面の取り組み

設備面の取り組みは、会社の中にありながらもプライベートな空間であるトイレや更衣室といったオフィス設備を、性別・性自認を問わず誰もが不自由さや不快感を覚えずに利用できるようなものに変える取り組みです。

 

 

トイレ

男女の区別なく、だれもが利用できるトイレを設置する取り組みです。企業主導の場合もあれば、オフィスビルのデベロッパーが提案するケースもあるようです。「だれでもトイレ」「オールジェンダートイレ」「ジェンダーフリートイレ」「ユニバーサルトイレ」「多目的トイレ」など、さまざまな呼び方があります。また、設備はそのままに、性自認に合わせたトイレの利用を認めている企業もあります。

 

 

更衣室

トイレと同様に、誰でも利用できる個室タイプの更衣室を用意するといった取り組みです。設備はそのままに、時間交代制にするなど運用で対応している企業もあります。また、設備ではありませんが、制服・作業着を性別によって分けないデザインに変更した企業もあります。

 

 

1-3.職場環境の取り組み

制度・設備といったハード面の整備に対し、職場環境面の取り組みは人や組織といったソフト面への働きかけのことを指します。LGBTQ+に対する理解を促すなど、誰もがジェンダーに関することで嫌な思いをせずに働ける職場づくりを目指す活動です。

 

LGBTQ+/ダイバーシティ研修
経営層・管理職・メンバー・新入社員など組織の各層や、人事・企画・営業など職務別に、LGBTQ+などの性的マイノリティの理解を深めるための研修や勉強会を実施する取り組みです。中には、eラーニングで実施する企業もあります。

 

前述の経団連による「LGBTQ+への企業の取り組みに関するアンケート」において、「性的指向・性的自認等に基づくハラスメント・差別の禁止を社内規定に明記」に次いで多く実施・検討されていたのが「社内セミナー等の開催」(69.1%)でした。

 

人権啓発研修などの名目で行われる一般的な内容のものもあれば、人材採用の際の面接官となる従業員に対して採用活動時の性的マイノリティに対する対応を学ぶもの、広告宣伝活動において性的マイノリティの人たちの権利を侵害しないための知識を付けるものなど、さまざまな研修内容があります。

 

相談窓口の設置
経団連のアンケートで、企業の取り組みとして3番目に多かったのが、「LGBTQ+の社員に向けた社内相談窓口の設置」(62.4%)でした。

 

LGBTQ+など性的マイノリティの従業員が、カミングアウトしたかどうかにかかわらず利用できるような相談窓口・ホットラインを設置し、既存の制度では対応できない個別の悩み事やハラスメントなどの相談に対応する取り組みです。相談者のプライバシー確保が十分に配慮される必要があります。多くの場合、LGBTQ+のための相談窓口を用意するというよりは、他のさまざまなハラスメントの相談窓口で対応できるようにするケースが多いようです。

 

大企業では、「ダイバーシティ推進室」「人権啓発室」といったような専門組織を設けてそこのメンバーが相談に対応したり、すでにカミングアウトした人がいる企業ではLGBTQ+当事者が相談員を務めたりする場合もあります。

 

サークル・コミュニティ活動(アライ=支援者含む)

LGBTQ+など性的マイノリティの当事者や、性的マイノリティを理解し支援するアライ(Ally)と呼ばれる人たちが構成員となるコミュニティをつくる企業があります。メンバー構成は、当事者のみが参加するもの、当事者とアライが参加するもの、アライのみが参加するものがあり、企業によってさまざまです。

 

コミュニティでは、互いの親睦を深めたり、社内に向けてLGBTQ+に対する理解を促す啓発活動を行ったりします。

 

LGBTQ+イベントへの協賛・出展など

性的マイノリティの存在を社会に広めるLGBTQ+イベントが各地で開催されています。
こうしたイベントに協賛したり、ブース出展したりすることも、企業としてのLGBTQ+に関する取り組みの代表的なものの1つです。

 

中でも、毎年開催されている「東京レインボープライド」は最も有名で大規模なものですが、協賛企業には、業種や組織規模、日本企業か外資系企業かにかかわらず、さまざまな企業が名を連ねています。

 

 

2.企業が社会的責任を果たしていくために

LGBTQ+など性的マイノリティの人たちが働きやすい職場にするために、企業ができる取り組みについて、代表的なものを紹介しました。

 

制度面や設備面の整備をどれだけ行っても、そこで働く同僚や上司が発するたった一言が、LGBTQ+などの性的マイノリティの人たちの尊厳を損ない、働きにくい職場にしてしまうかもしれません。その意味では、制度やルール、設備などを整えることと、人や組織に働きかける環境面の取り組みとはどちらも欠くことのできない車の両輪です。企業がこうした取り組みを行う目的として、「多様性にもとづくイノベーション創出」「生産性向上」「企業イメージの向上」などが挙げられるケースも見受けます。

 

しかし、「企業は社会の公器」といわれるように、あらゆる人の人権を尊重するという最も基本的な社会的責任を果たすことが企業に求められているからこそ、こうした動きが広まりつつあるのではないでしょうか。

 

構成員が入れ替わる企業において、こうした活動に終わりはなく、継続的な取り組みが必要です。その意味では、自社の性的マイノリティに配慮する取り組みが進んでいる・いないにかかわらず、またどのような立場の人であっても、ぜひ一度、自分自身に何ができるのかを考えてみられてはいかがでしょうか。

 

 

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