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ポストコロナに向けてのデジタル戦略

公開日:2024/01/31 / 最終更新日: 2024/02/21

コロナ禍や気候変動による災害などにより、社会の不確実性が増しています。社会の変化に迅速かつ適切に対応するために、テクノロジーを活用した変革が多くの企業に求められる状況で、ビジネスの中核を担う人材はどのようにあるべきでしょうか。

Society5.0やスマートシティなどの社会基盤つくりに取り組むデジタル庁 データ戦略統括(※講演時、内閣官房 政府CIO上席補佐官/経済産業省CIO補佐官) 平本健二氏が登壇した講演の内容から紐解きましょう。
※本記事はJACエグゼクティブが2021年8月26日に開催したオンラインセミナーの内容における平本氏の講演を基に一部抜粋・再構成しています。


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布谷 好輝

講師プロフィール
平本 健二 氏

デジタル庁データ戦略統括(※講演時、内閣官房 政府CIO上席補佐官/経済産業省CIO補佐官)。
大手SIerからコンサルティング会社を経て現職。デジタル技術による社会サービス改革を担当。
既存の社会の枠組みでは解決できなかった課題を、調査、検証からサービス展開まで一貫プロジェクトとして実施してきた。
国・自治体を通じた調達情報、支援制度情報サイトの構築・運用をするとともに、文字、語彙、コード等のデータ連携基盤整備、webサイトの抜本的な見直し等、社会全体のデジタル改革をグローバルな視点から推進している。Society5.0やスマートシティ等の社会基盤つくりにも参加しており、教育、防災、物流、農業など幅広い分野で取り組みを進めている。現場の声を重視し、住民や技術者との協働イベントにも積極的に参加をしている。


コロナ禍を経て変わったものを理解する


ポストコロナによって何が変わったのかという記事を雑誌や新聞で目にする機会が増えました。私は大きく3つの変化があったと思います。

1つ目は働き方の変化です。リモートワークや兼業・副業が一般的になり、それにともなって労働時間よりも成果を重視するようになりました。
また2つ目の変化として、買い物も変わりました。皆さんもネットショッピングをされると思いますが、最近では商品を見るだけの店舗(ショールーミングストア)が登場したり、チャットで訪問前に相談したりできるようになりました。
こうした2つの変化に関連しているのが3つ目の急速なデジタル化と技術の発展です。音声認識を使って検索やリアルタイム翻訳、テレワークやオンライン講演を支える配信サービスに加え、キャッシュレス決済などあらゆる変化が起きました。

社会全体が再び活性化し人流が戻ったとしても、このデジタル化した環境と、新しい働き方が生まれた状況において、どのように社会を作っていくかを考えていくべきでしょうし、各国が模索しながら進んでいるという状況だと思います。

そしてもう1つ重要なのは、加速度をもって変化しているということです。

去年買ったものの新しいモデルを見たら、これまでに無かった新機能がついていたという経験をした方も多いと思います。オンライン申請の拡大のようにゆるやかな変化もあれば、技術がジャンプアップすることでトラックからドローンに輸送が変わるといった劇的な変化も起きています。それによって制度のひずみや考え方の対立が起きています。

技術の変化によって向かう方向も顧客のニーズも急激に変化しているなかで、制度や法律は変化に時間を要するので、そこに隙間が生まれてしまいます。また、スマートフォンを積極的に使う人と、情報漏洩リスクを心配したり現金決済を選んだりすることでスマートフォンを使わない人との間にギャップが生じています。こうして社会全体のスピード感に追いつくのが大変だという状況が時として発生しているのです。

デジタル敗戦とは、リスクを正しく判断できない社会


技術の変化速度が、制度の変化速度を凌駕した結果、日本は欧米と比べてデジタル化が遅れた(=デジタル敗戦)と捉える見方もあります。
その要因は社会全体としてリスクを正しく判断できなかったことにあるのではないかと思っています。

新しいビジネスというのは、おおむねグレーゾーンの中で発生しています。
今までの制度の中で安定していたビジネスモデルの外で新しいビジネスを始める——たとえば、出前でやっていたものをフードデリバリーに置き換えようとした時に、自転車で運ぶ危険性などのリスクが取り沙汰されます。その際に正しくリスクを判断し、ビジネスを進めていく人がマーケットを広げているのだと思います。

一方でグレーゾーンでのささいなリスクを強調する社会もデジタル化が遅れた要因の一つにあると思います。企業内でも若手が新規事業の提案を持っていっても、上司が「それは危なくないのか」「情報漏えいしたらどうするんだ」といった指摘をして部下を萎縮させてしまい、挑戦できなくなってしまう。失敗から学んで次のステップに進むことが重要な経験であるのに、萎縮して行動できないから、結果として失敗した経験を持つ人が減っているわけです。

そうするといきなり大きな仕事で失敗をしてしまうこともありますし、小さなトライアルの中で失敗を繰り返すことで、若い人からチャレンジする精神を引き出していかないと、このままデジタル敗戦のまま進み、イノベーションの起こらない社会ができてしまいます。

ポストコロナの中で社会の不確実性が増すなかでチャレンジすること、ダメなら早期の撤退や軌道修正を前提とすることが重要だと思います。

海外に目を向ければ、日本では人口が減少する一方、急増している途上国もあります。そういった国の市場に、課題先進国である日本で実績を残したサービスを投入するというのは大きな商機であり、これから2030年、2040年に向けてやるべきことはたくさんあります。また2050年ともなれば、AIが人間の頭脳を凌駕するシンギュラリティを起点として、バッテリーの小型軽量化やロボットの高機能化などの各技術が組み合わさることで、新しいビジネスが生まれていくでしょう。そうした30年後を見据えて、何を今やっていくべきかを考えるべきでしょう。


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日常に溶け込んでいるデジタルのインパクト


街中を見渡すとビルや道路には施設名や店舗の営業時間、住所が記載されていて、それ自体は日本も欧米も変わりません。一方では交通量や各車両の運転データ、交通量、携帯電話同士の密度データなどをセンサーが取得しています。看板や標識と異なり、私達がそれらのデータを目にすることも意識することもないでしょう。皆さんが気づかない間にデジタルの世界に入り込んでいるのが今の状況なのです。

一昔前のITはキーボードやマウスを使った意図的な操作が前提でしたが、現在ではそれだけでなく、さまざまなデバイスやインターネットとつながった製品を通じてデータを提供している、空気のような存在なのです。

また20世紀は道路や橋、建物がインフラであり、そこに優れた企業や人材が集積することで成長していましたが、21世紀になるとインフラはネットワークやデータ、それらを流通させる環境に変わりました。企業や人材は整備された都市に向かって集まるのではなく、光ファイバーや5Gといったインフラや、データと流通環境が整った地域に集まっているのです。その典型例がエストニアで通信インフラとIT基盤が整っているので、海外から進出する企業も多く、優れた企業や人材を引きつける国であり続けています。

またさまざまなプラットフォーマーが台頭していますが、国を越えてデータが集積し、解析した結果をもとに高度なサービスを提供し、利用者が増加するというサイクルが成立しています。そこに世界中の優秀なエンジニアが集まってくることで、ドラスティックなイノベーションを起こしています。私もコロナ関連の対策を行う際にAppleやGoogleとのやりとりが欠かせませんでしたが、彼らは日本だけでなく世界中とやりとりをしながらデジタル社会を創造しているわけです。

国内のサービスだけに目を向けるのではなく、グローバルなプラットフォーマーの動きを見ながら、新しいサービスを考えていかなければならない—それは現在の日本企業にも当てはまることなのです。

DXが果たす役割


行政でも民間企業でもBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:Business Process Re-engineering)という言葉を好んで使いますが、業務プロセスを見て、身近なプロセスを変えていくのがBPRだとしたら、DXは技術の活用によってビジネスモデルや業務スタイルを抜本的に変えるものです。

先程の輸送を例にあげればトラックによる輸送をBPRの視点から変革を試みた場合、道路を使い、輸送手段もトラックから変わることはありません。一方でDXはデジタル技術によって、空路を使ってドローンで運ぶといった抜本的な変革ができる—これがDXの本質だと理解してください。

さらに身近な例では印鑑を押してFAXで送っていたものを、デジタル印鑑を導入してデータとして記録するというのもDXです。FAXで受け取った内容を再度手入力する手間もなくなり、FAXも不要になるのでビジネス自体が変革します。

DXはスピードが早いので、制度が追いつかず法律という観点ではグレーゾーンにならざるを得ないという特徴があります。また誰もが参加できるという点も無視できません。SNSによって誰もがどこからでもマーケティングできたり、クラウドソーシングを使って、地方都市にいながらにして他の国や街にいる優秀なエンジニアに仕事を依頼したり、逆に自らが仕事を請け負うこともしやすくなりました。

サービスが普及する速度も加速度的に変化しています。5000万人のユーザーを得るのに飛行機は68年かかり、クレジットカードは28年かかりましたが、インターネットは7年、Twitterは2年、そしてPokemon Goは19日というように、何十年もかかっていたことが数日で達成するほど、ビジネスのスピードは変化しているのです。

もう少し身近な例では、定期健診は医療機器として認定されるような高精度なスマートブレスレットが担い、機械の定期整備はセンサーによるモニタリングが担い、交通量調査もモバイル端末の位置情報による調査に変わるなど、定期○○と名のつくものは皆さんの周りから消えていくでしょう。

また、遠隔医療や遠隔操作が普通になり、今日のオンラインセミナーのように距離がハードルではなくなる時代になります。

一方で「地方ではそこまでデジタルは来ていない」「高齢者には使いにくい」といった声を聞くこともありますが、地方にいながらにして学んだり仕事をしたりできるので、個人の能力や可能性を最大化できる利点がデジタルにはあります。

また「AIに仕事が奪われる」と思う方もいるかも知れませんが、AIと人間が協働することによって、どちらか片方でやるよりも作業効率や精度が飛躍的に上がるとされています。そうして創造力を求められるような仕事など、人にしかできない仕事にフォーカスしたり、AIや機械だけでは処理できなかった例外的な部分だけをフォローするという役割分担もできるでしょう。

また、デジタルやITの現場ではデジタルディバイド(情報格差)の解消が課題に上がりますが、DXにおけるデジタルは誰にでも優しいのが特徴です。高齢者であってもAIスピーカーやチャットボットなど誰でもコミュニケーションできるデバイスを使ったサポートが可能です。日本は少子高齢化という点では課題先進国なので、その日本で高齢者向けのDXサービスを開発してブレイクすれば、後から高齢化に悩む海外に売り込む際に優位なポジションに立てます。

DXの中核にある「データ」の重要性


タクシー会社が車両の走行データを販売したり、携帯電話会社が人流データを販売したり、インターネットに繋がった自動車が急ブレーキをかけた位置データを自動車メーカーから購入して、都市計画に活用するなどメインのビジネス領域の周辺に埋もれたチャンスがあります。冒頭でお話したように、まさにデジタルでビジネスの変革がおきうる状況で、ユーザーのニーズも変わっていく中で、企業も自らのポテンシャルを見つめ直す機会が来ています。

私もさまざまな団体の会合に参加するのですが、そういう場では「うちの会社でAI使って何かできないのか」とか「うちの隠れた資産を使って、なんとかしろ」というお題だけが振っていて困っているという企業担当者の話を聞きます。

そういうときは他社の取り組みを見て学んだり、社外の人じゃないと気づかない価値があったりするので、外部の人と話しながらアイデアを膨らませるところから始めたほうが良いと思います。

AIは人間の能力を凌駕するという考え方から「そういうことはAIが考えるから、(人間は考えなくて)いいんですよ」とか言われることがあります。確かにAIは人間と違って疲れないので、24時間稼働しますし、常識や恐怖心がないので人間ができないパターンの学習もできます。ただ、AIは学習するデータが無ければ万能ではなく、良いデータ人間が用意する必要があります。また、AI自身に意思も無いので、判断は最終的には人間に委ねられます。AIは決して万能な存在ではありません。AIに限らず、IoTやRPA、クラウドにしてもデータが無ければ意味がありません。

一方で単純にデータが多ければ良いわけではなく、一つ一つのデータ品質の担保や内容の見直しと改善も必要です。原材料や産地、賞味期限の記載がない食品は商材として流通させてはいけませんし、データのポテンシャルを引き出すためのツールや基盤を整理し、円滑にデータ利用と流通ができるルールを企業も行政も整備していく必要があると考えています。

その実現のために企業が整備するべきデータ基盤の基準としては誰とでも手を組めて、透明性と明確な仕組みが共存したものであるべきでしょう。

デジタル時代を生き延びるチーム作り

それでは、これまでお話したような環境下を生き延びるために、企業はどのようなチームを作るべきでしょうか。

まず全ての専門家を社内に抱えるのは不可能なので、各社員が外部のネットワークに顔を出して人脈を作ったり、グローバルな技術者コミュニティとつながりを持ったりなど身近な専門家を巻き込むべきだと思います。

また、組織内も常に前向きな思考を持ち、どうすれば突破できるかを考える雰囲気作りが重要です。そのためには失敗できる雰囲気を作り、小さな成功を褒め合い、セミナーや勉強会を通じてお互いに学び合うといった環境を作っていくべきだと思います。そうして、皆が持っている知見を持ち寄り、チームが目指す姿を共有することで、チームのロイヤリティを高めていくことが理想でしょう。

ここまでお話ししてきて、2050年について語られても困るよと思われるかもしれません。ただ、今できることとして「この紙は要らないんじゃないか」とか「自前でシステムを何でも開発するのではなく、申込や決済であれば既にあるサービスを使ったほうが楽なんじゃないか」という点からチームや社内で議論を始めることが、最初の一歩として重要だと思います。

無駄なものを廃止し、自社だけでなく周囲の取引先も楽になる仕組みを考える一方で、実行するにあたってのセキュリティやリスクは技術でカバーする仕組みにしていくことが、DX時代を生きるビジネスパーソンと企業が目指す未来だと思います。

この記事の筆者

株式会社JAC Recruitment 編集部

株式会社JAC Recruitment

 編集部 


当サイトを運営する、JACの編集部です。 日々、採用企業とコミュニケーションを取っているJACのコンサルタントや、最新の転職市場を分析しているJACのアナリストなどにインタビューし、皆様がキャリアを描く際に、また転職の際に役立つ情報をお届けしています。





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