【イベントレポート】AIのパイオニアに学ぶ、製造DXにおけるAI活用の本質と挑戦

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「Chat GPT」をはじめとした生成AIの台頭により、大きな盛り上がりを見せるAI市場。
キャリアのあり方も大きく変化しています。多くの企業がAI活用を進める中、ダイキン工業株式会社(以下ダイキン)では異例のDX人材育成を行っています。AIで実現する製造DXの未来とは?元日本マイクロソフト業務執行役員で、JAC Digitalアドバイザーの澤円氏が迫ったイベントの様子をお届けします。

 

※ 本記事は2023年7月6日にJAC Digitalが開催したオンラインイベントを一部抜粋・再構成したものです。

 

 

目次

 

<登壇者・登壇企業紹介>

ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 技師長 比戸 将平氏

ダイキン工業株式会社
テクノロジー・イノベーションセンター
技師長 比戸 将平氏

IBM東京基礎研究所主任研究員、米Preferred Networks Americaチーフリサーチオフィサー、Preferred Networks執行役員を経て2023年1月より現職。
最先端の動画像認識技術や生成AIの製造業における活用に関してDX推進担当として技術リードを担う。機械学習研究と人工知能技術の産業応用が専門。
京都大学大学院情報学研究科修士卒。IPA未踏ユーススーパークリエータ

※7月6日開催当時の組織、役職名です。

 

 

ダイキン工業株式会社 テクノロジー・イノベーションセンター 副センタ―長 都島 良久氏

ダイキン工業株式会社
テクノロジー・イノベーションセンター
副センタ―長 都島 良久氏

東京大学大学院工学系研究科卒。2007年4月、ダイキン工業株式会社入社。
空調機を主とした集中管理コントローラなどを扱うシステム商品開発部門を経て、2015年よりテクノロジー・イノベーションセンターにて空調分野におけるIoT・AIの活用に従事。
現在、全社のデータ活用推進に向け、各種テーマの推進・マネジメント、データ基盤構築に加え、デジタル人材の育成・強化施策として設立した社内大学「ダイキン情報技術大学」の企画・運営など幅広く活動中。

※7月6日開催当時の組織、役職名です。

 

 

澤円氏

株式会社圓窓
澤 円氏

元日本マイクロソフト株式会社業務執行役員。立教大学経済学部卒。生命保険の IT 子会社勤務を経て、1997 年、日本マイクロソフト株式会社へ。IT コンサルタントやプリセールスエンジニアとしてキャリアを積んだのち、2006 年にマネジメントに職掌転換。幅広いテクノロジー領域の啓蒙活動を行うのと並行して、サイバー犯罪対応チームの日本サテライト責任者 を兼任。2020 年 8 月末に退社。2019 年 10 月 10 日より、(株)圓窓 代表取締役就任。
現在は、数多くの企業の顧問やアドバイザーを兼任し、テクノロジー啓蒙や人材育成に注力している。美容業界やファッション業界の第一人者たちとのコラボも、 業界を超えて積極的に行っている。テレビ・ラジオ等の出演多数。Voicy パーソナリティ。武蔵野大学専任教員。

1. 日本を支える製造業とAI

 

澤氏:本日は、エアコンメーカーとして知られているダイキンのAI活用戦略を担うべくして2023年1月に同社へ入社されたテクノロジー・イノベーションセンターの技師長である比戸将平氏と、ダイキン情報技術大学の企画・運営に従事し、技術開発のコア拠点となるテクノロジー・イノベーションセンターの副センター長である都島良久氏をお招きし、AIによって実現可能な製造DXの未来についてのお話を伺っていきます。

 

製造業は日本を支え続けている一大産業ですが、そこにAIが組み合わさることで、以前であれば非常に苦労していたことが今だとかなり楽にできるようになったという感覚はありますか?

 

都島氏:空調機の運転データの活用ということでは、お客さんに空調機を納めて回線を引くことになるのですが、当時だとで「別回線にしたい」とか、インターネットに関しても「工事どうする?」とか、お客さん側に負担が無いように進めていくのは非常に大変でした。

 

澤氏:それが今はインターネットによって省力化されたので、あり方がずいぶん変わりましたね。

 

都島氏:そうですね。あと現場作業の話でいうと、たとえばモバイルの話などは情報連携についてはまだアナログの話はあるものの、やりやすい環境にはどんどんなってきていると思います。

 

澤氏:「製造DX」というキーワードがあるように、製造業やものづくりにおいて、AIをこのように関わらせていきたいという思惑や試みありますか?

 

比戸氏:故障検知や外観検査という部分は、製造業にとってずっと重要な古くて新しい課題です。そこに対してAIの性能が向上する中、新しいものを試していくことは大きな活動としてはあると思います。たとえば、空調機器が壊れたお客さんに対して、AI活用による故障検知によって原因を分類し、どんな対処が必要かを把握し、処理を行う人間にどの交換部品が必要かを伝え、1回の訪問で問題解決できる確率の向上が可能となります。

 

また、施工やメンテナンスをどうするかという課題など、プロダクトライフサイクルのさまざまなところでAI活用やDXは必要だと感じています。我々の業界でも熟練者の高齢化が問題になってきており、ノウハウの伝承がなかなかできていないのが現状です。

 

そのような状況の中、グローバルでは空調市場は非常に伸びており、2015年から2050年の間に世界の空調需要は3倍に跳ね上がるとも言われています。それについていくのはとても大変で、製造を間に合わせるためにはいろいろなことに取り組まないと他社には勝てないため、やるべきことはたくさんあると感じます。

 

都島氏:デジタルサイドの人間としては、アナログな部分とデジタルな部分をうまく融合させ、自動化やメカニズムの解明もやりがいになるのではないかと思います。ラボの中での結果と実際の物件における結果が完全一致しにくいことからも、実運転データを見ながら「もう少しこうすればお客さんに喜ばれるのではないか?」という部分を掘り下げていけたらと思っています。

 

2. スマートデバイスを活用した現場支援例

 

澤氏:「ダイキンはこんなことやってるんだ」と言えるような事例ってありますか?

 

比戸氏:現在メインで担当しているプロジェクトが、施工や保守のDX化です。施工や保守を行ってくれる業者は、グローバル的に見るとどんどん不足しており、彼らをどうやって助けるか、また教育して増やしていくか、という部分でスマートデバイスを使った現場支援を行おうと試みています。

 

具体的には、スマートデバイスを装着してもらい、そこで指示を出してもらうといったもので、今はフェアリーデバイセズというベンチャー企業と協業し、カメラの付いた首掛けのスマートデバイスを使って一人称視点での作業を撮影できるような試みを行っています。今はZoomやMicrosoft Teamsでつなぎ、初心者にリモートで熟練者が直接画像を見ながらアドバイスができる体制を構築していますが、今後は動画認識の技術を入れてAIが自動で教える機能をスケールしようとしています。

 

比戸氏、都島氏、澤氏

 

3. スタートアップとの協業・共創

 

比戸氏:動画認識の技術でAIがガイダンスするといった機能はかなり先進的なもので、同じようなことをやっている企業はまだありません。そこを先進的なベンチャー企業と組んでやっていくのは非常に面白い取り組みだと思っていて、私もモチベーションをもって活動しています。先日もカナダのバンクーバーで、コンピュータビジョン分野の国際会議となるCVPR(Conference on Computer Vision and Pattern Recognition)に行き、最新技術を学んできました。

 

協業しているフェアリーデバイセズにもダイキンは出資を行っており、優先度の高いパートナーとして良い関係性が築けています。現在私はダイキンでスタートアップと協業をする側に回りましたが、彼らの気持ちやモチベーションはわかるので、お互いにきちんと話し合うなどフェアな関係です。

 

澤氏:ベンチャー企業で20人ぐらいから300人に拡大しても、規模の経済を使うことは難しいと思います。大規模なデータプールがあるかというとベンチャーだと自社で構築することはなかなかないものの、ダイキン社内にはすであるわけです。それをどう利用していくかだけを考えると、協業するベンチャー企業としては非常にありがたいことで、製品開発にも本腰が入りますね。

 

4. ボーダーレスな時代を生き抜くための人材採用

 

都島氏:僕が大事に思っていることは「事業会社におけるデジタル」です。その部分のリンクは大切に思っています。

 

澤氏:事業会社におけるデジタルというキーワードは非常にホットですね。それって、都島さんが現場の方と会話する際に昔からずっと続いているダイキンの伝統ですか?

 

都島氏:過去にAIだ、ビックデータだというころに「うちはどうするんだ?」「何をどうしていくんだ?」といった話はありましたが、そんな時、「まず人材から始める」といった経営トップの意思決定がありました。そして2017年、「ダイキン情報技術大学」という社内の人材育成制度がスタートし、毎年新卒を100名ずつ2年間、大学院卒レベルのデータサイエンス、システムエンジニアに鍛えあげた上でそれぞれの現場に配置していきました。それから、ようやくデジタル化に向けて走り出すことができました。

 

その際、PBL(Project Based Learning)という形式を2年目の教育に取り入れ、現場課題をデジタルで解決していくことについてテーマを調整しました。成果につながらないこともありましたが、いろいろわかったことはひとつの成果だと思います。それらがどんどん顕在化していき、個別のテーマからどう大きく育てていくかというフェーズに移っていく段階に入っています。

 

比戸氏:私は講師としてではないですが、社内向けに「AI人材としてあなたたちはどうしていくべきか?」とか「こういう落とし穴がありますよ」といったセミナーを各年代に対して行っており、気になることは個人面談するなど人材の底上げに関わっています。

 

都島氏:部門の方々は、現場側に否定・批判的な話はあまりなく、AIに対する期待はすごくあるものの、「やる必要はあるのだけれどどう扱ったらいいのか?」「で、何したらいいのか?」というものでした。そのため、人材を起点にして、具体的に一緒に手を動かすことが行うことで、受け入れてもらえて、うまく回せるようになっているかと思います。

 

5.過去最高益を更新するグローバル総合空調メーカー・ダイキンが求める人材

 

澤氏:ダイキンさんといえば、日本ではどこにでも設置されている大手空調メーカーというイメージはあるものの、グローバルに展開しているイメージは意外だと感じる方も多いと思います。実際にグローバルに活躍してくれる人材も欲しい、あるいはそのような機会も提供します、といった理解で合っていますか?

 

都島氏:これだけたくさんの生産拠点があることからもわかるように、デジタル活用はどこの国でも望まれていると感じており、今後のグローバル展開における社内の理解と先端技術をどう紐付けていくかは重要なポイントです。また、入社後すぐに転職されてしまうと自社の事業活動の領域の話って弱くなってしまうので、社内の知見も溜めつつ活用できるグローバル人材はすごく来て欲しいです。

 

比戸氏:中に入ってびっくりしたことに、国によって全然違うものを作っていることがあります。車会社でいうと、ある国ではトラックを作り、別の国では高級車を作るようなことをしているので、やることは一向に減りません。ただ国ごとにカスタマイズしているという意味では必要なことですし、エンジニアは大変ですがやりがいはあります。

 

6.質疑応答

 

Q.ダイキン情報技術大学を卒業された方は、各事業部に配属されるのでしょうか?また各事業部へのDX教育は実施されているでしょうか?

 

都島氏:情報技術大学では2025年末までに2000名というデジタル人材育成をコミットしています。新卒を2年間育成して配置していくのと同時に、新卒をどのようにリード・マネジメントしていくかというそれぞれの階層に向けた教育も並行して行っています。あと2年でやりきれないことを追加教育していくことも行っています。新卒に関しては約400名が本配属していますが、開発や営業、製造、物流、施工、運用、サービスといった全部門へ配置を行っています。

 

Q.プログラムのアップデートも準備されていますか?

 

都島氏:講座側と実際の受講側が本当にマッチしているか?というのはギャップも当然あるので、実際どうなのか?どういうことがあるとうれしいのか?といったコミュニケーションを取りながら具体的な講座を作っている状況です。

 

比戸氏:第4次AIブームがどう盛り上がってきて、どう使えそうかといった話を幹部中心に聞いたりしながらアップデートはしています。常に最新技術を取り入れていくモデルやアルゴリズムのアップデートが必要というのは、みんなわかっていると思いますし、プログラム開始から5年経過して、当時とどれだけ変わっているか、今だとどういうものが使えそうかというのは上がってきていると思います。

 

Q.経営の意思としてAIやDXに取り組むということで、現場の協力を得られやすい状況だと思います。しかし、現場が協力したものの成果が思うようにいかないことが続くと、現場からの不満が出てくるように思います。その場合、どのようなマネジメントを行っているのでしょうか?

 

都島氏:早すぎたという問題や、タイミングとして現場側としてもリソースが当て切れない、技術的にまだ達成できていない、などいろんなケースがあると思いますが、「そこの要因って何ですか?」という振り返りに尽きるかなと思っています。

 

僕が意識しているのは、事業課題や技術課題、体制的な課題は切り分けるようにしながらマネジメントすることで、先ほどの情報技術大学の話ですと「来年これを受けて欲しい」とか「こういう人を配属するってことにした上で進める」といった調整も可能ですし、そういうことをテーマの一つずつに入り込んで決めていくことかと思います。

 

比戸氏:失敗を引きずり過ぎて「AIなんて使い物にならないから二度と検討しない」となるのは良くないと思いますが、そういう場面にほとんど遭遇しません。社内では「新しい技術をもってきたらできるかもしれない」というように、みんなが期待してくれているという風通しの良さを感じます。「当時は難しくて実用化までは至らなかったけれども、今の技術でそこの部分さえクリアできれば一気に行けるのでは?」といった建設的な話ができるのはとても良いことだと思います。

 

Q.ドメイン担当者の人達もAIについてある程度知っていないといけないと思います。実際、どれぐらいのリテラシーレベルの人がいればいいのでしょうか?

 

都島氏:当然興味の度合いは人によってばらつきがあります。世の中に情報はたくさんあるわけで、興味・関心をもてるかどうかです。リテラシーの話で言うと、数多くのテーマが職場で実行されていて、当事者だけでなく周囲の人も何をやっているかは知っているので、すごく言葉は通じやすいです。昔はAIという言葉が魔法化していた時期がありましたが、そういう部分はかなりなくなりました。

 

あと、純粋なデジタルリテラシーをもった上での活用はまだまだ不十分ですので、個人ベースの話から組織的な話にこれからステージを変化させていきたいと思っています。

 

比戸氏:結構みんな自分のこととして捉えていて、こちらがお願いしないとテーマが上がってこないのではなく、出てきたものから筋のいいものをセレクトしてPBLとして行っていることもあり、ちょうどいいぐらいの期待の中でやっているという印象はあります。今はそういう状態の中でAIを活用するのがデフォルトとなっていますし、「AIならこういうことができるはずだからこれは解けないか?」といった現実的な取り組みをたくさん行っている最中です。

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