あなたの会社でデジタルトランスフォーメーションが進まない理由

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AIやIoT、5Gなどのデジタル・テクノロジーを活用して、ビジネスを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されている。しかし、日本は先進国の中でもDXの普及が遅れていると指摘されている。

野村総合研究所(NRI)傘下のNRIセキュアテクノロジーズが日本、アメリカ、シンガポールを対象に実施した調査「企業における情報セキュリティ実態調査2019」によれば、DXに取り組んでいると答えた企業の割合はアメリカとシンガポールが85%超に対して、日本は約30%と大きな差が開いている。

出典:野村総合研究所「企業における情報セキュリティ実態調査2019」を元に当社加工

なぜ、日本でDXが進まないのだろうか。NPO法人「ITスキル研究フォーラム(iSRF)」がIT人材1463人と、企業の経営層・管理職103人に調査した「全国スキル調査」を紹介したい。

まず経営層・管理職側のデータを見てみよう。DXに対する目的がビジョンとして明確に社員に示されているかという問いに肯定的に答えた割合は60%を超える。しかし、CDO(最高デジタル責任者)やデータサイエンティストなどDXに必要な人材がいるかという質問に対して「いる」と答えた割合は約30%、従来の人事制度にとらわれずにDXに必要な人材を積極採用していると答えた割合は約25%に留まっている。DXに対する関心はありながらも、具体的なアクションを起こしていない現状が伺える。

環境面ではどうだろうか。DXによって必要なのは日本でおなじみのPDCAサイクルではなく、OODA (観察【Observe】、仮説構築【Orient】、意思決定【Decide】、実⾏【Act】) やデザイン思考が必要だと言われている。これを実行できている答えた経営層・管理職は35%と低い水準だ。同じ質問をIT人材に実施したところ、実行できていると答えた割合は19%と更に低い。

既存のビジネス構造を変革する大掛かりな取組は、初めから大きな投資・大きな成功を狙うのではなく、小さなトライアルを繰り返し、早く失敗する(Fail Fast)ことで、小さな投資で課題を抽出しながら、最適な手法を見出す手法が現実的だ。

大企業ともなれば、失敗を未然に防ぐよう検討のプロセスを複雑化したり、さまざまな部署にヒアリングをしたりといった対策することも珍しくない。しかし、一度も検証しないまま議論だけで決裁してしまうと、大規模な投資をしたあとになって問題が発生するといったトラブルも起きやすい。実行までに膨大な人数の合意形成が絡んだ結果、責任の所在もはっきりせず、結果的には外部のベンダーに責任を押し付けたというケースを、あなたの会社で見たことはないだろうか。

このFail Fastの発想が自社に浸透しているかという質問に対し、「浸透している」と肯定的に回答した経営層・管理職は27%、IT人材側は26%と非常に低い水準となっている。

こうした古い慣習・考え方に多くの企業が縛られていることが、DXが進まない主な要因と言えるだろう。

DXに対する意識の面では前向きであるものの、具体的な取組や体制の構築には及んでいない日本企業。この状況を打破するには、DXに対応した人材と組織を効果的に配置する必要がある。

CDOに必要なのは、技術理解力とコミュニケーション能力の高さ

まずはDXをリードするCDOの起用は必要不可欠だ。しかし、単純にシステム畑の管理職を起用するだけでは効果は薄い。DXの推進に必要なのは、IT技術の理解や導入実績ではなく、デジタルによる構造変革を正しく遂行できる能力だ。そのためには業務部門とIT部門にDXのビジョンを浸透させ、実行に移せる交渉力と、説得力のあるビジョンを策定できる能力が重要になる。

もちろん、技術に対する理解の深さも重要だ。しかし、それはエンジニアのような技術開発力ではなく、自社の内部と外部にあるデータの流れを把握し、最適なDXの手法を判断し、適応できる能力であり、マーケティングや戦略策定とセットになった技術への理解だ。

DXを進めるプロセスについても、時には前例に縛られないことが重要だ。

先に述べたFail FastやOODAといった発想や手法は、日本企業では未だ浸透していない。DXを進める上で最適な手法は何か、常に思考と実践を躊躇うこと無く実行し、DX部門のメンバーが力量を発揮できる環境を作ることもCDOに求められる仕事だ。

コミュニケーションを深める先は社内だけではない。パートナーとなる企業とも積極的に関わるCDOも珍しくない。特にオープン・イノベーションに意欲的な欧米では、テクノロジー系のカンファレンスや展示会にCDOやCIO(最高イノベーション責任者)が自ら赴き、スタートアップ企業と直接コミュニケーションを取ることも珍しくない。

こうして、社内外のあらゆるレイヤーの関係者と密にコミュニケーションを図りながら、自社の課題に対して必要なデータの抽出と、適切なアウトプットまでの道筋を描き、データ主導による改善活動が円滑に進む文化を社内に根付かせるのがCDOのミッションだ。

スタートアップに学ぶ−−DX部門に必要なのは3つのタレント

次にCDOの元で活躍する人材の要件について触れたい。

筆者が普段取材しているスタートアップの界隈では、成功するチームは以下3つの役割を担うタレントが必要だと言われている。

ハスラー

ビジネスと課題、そして顧客を知る人物であり、リーダーシップをもって自分たちの技術をビジネスに落とし込み、売り込むことのできる能力を持つ。多くの場合はCEOが該当する。

ハッカー

課題を解決できる技術に精通し、技術を通じて新しい市場を創造、もしくは既存の市場をディスラプト(変革)できる人材。多くの場合はCTO(最高技術責任者)や開発責任者が担う。

ヒップスター

デザイン・クリエイティブのリーダー。ハスラーの持つビジネスアイデアと、ハッカーが持つ技術を多くの人が好んで触れたくなるようなインターフェースやデザインに変換する能力を持つ。

これをDX部門に置き換えると、以下のような役割になる。

ハスラー

自社のビジネスと課題、関連する部門を深く理解し、リーダーシップを持ってシステム部門や業務部門と連携しながらDXを推進できる。コンサルタントや業務改善などのバックグラウンドを持った人材が適任。

ハッカー

DXに必要な技術要件の洗い出しから、開発体制の構築、データ解析・分析を担う。エンジニアとしてのバックグラウンドだけでなく、データサイエンティストとしてのスキルも求められる。

ヒップスター

DXを活用したビジネスの企画・立案から実行・推進までを担うビジネスデザイナー。マーケティングツールの活用やプロモーション面でのデータ活用など、ビジネスの立案とデジタル・マーケティングへの理解が求められる。

なぜ、スタートアップのチーム構成を引き合いに出したのか、疑問に思うかもしれない。実は両者の立ち位置というのは非常に似通っている。

スタートアップとは社会にそれまで存在しなかった価値を提供することで、短期間で急成長を目指す組織を指す。基本的には事業開発、営業、開発など全てを自分たちで担い、自分たちでは賄えない部分(例えばハードウェアの量産や知財など)は外部のプロフェッショナルに委託するが、戦略立案から実行までを少人数ですることから、大企業には不可能なスピードで事業化を進めている。

スタートアップに求められるのは限られた人数と資本でゲームチェンジャーになることだ。そのために必要な人材構成は最小限かつ最も効率的である必要がある。

日本におけるDX部門の場合、スタートアップの「社会」の部分を「自社」に置き換えるとわかりやすい。自社にそれまで存在しなかったDXを提供することで、事業に変革をもたらし、生産性を向上させる。DXに必要な仕事の大半は自分たちで担うが、社内のシステム部門や事業部門への橋渡しなど、他部門との円滑な連携も欠かせない。

DX人材として求められるのは、コアな専門分野を持ちつつも、その知識と経験を能動的にアップデートできる積極性を持った人材だ。それには画一的なスペックで採用・異動をするのではなく、スキルの多様性と行動力を重視した人事も鍵となるだろう。

DXの実現は組織力がポイント

優秀な人材を集めただけでは中長期的な発展は見込めない。CDOを含めた経営層・管理職にはDX部門のスタッフに対し、従来の方式に囚われないプロセス評価やチームビルディング、そしてキャリアパスを用意する必要がある。DX部門で活躍できる人材は業界を問わず引く手あまただ。彼らが自分たちのスキルを十分に発揮できる環境が用意できなければ、短期間のうちに他社へ移る可能性も高い。

そのためには経営層のDXに対するコミットメントだけでなく、CDO以下のDX部門に適切な予算と権限があることが重要だ。

DXのみならず、「新規事業開発」や「イノベーション」という名のつく新しい部門を立ち上げても、十分な予算も目標も社内への発言力もなく、有名無実になっている日本企業は非常に多い。

「とりあえずやってみる」「試しに外に出てリサーチする」というフットワークの軽さ自体は悪くないが、そこに明確な目標や実行するための予算が無いと、情報収集しただけで終わってしまい、次のステップに進めない。

新規事業やオープン・イノベーションの模索を始めたはいいが、1年後に残ったのはきれいに作られたパワーポイントの報告書だけだったということが起きないよう、DXに対する投資の意義をクリアにすべきだろう。

そのためには、これまで指摘したとおり実行力のある骨太なDX部門の形成に加え、関連する部門にもDXへの意識付けを促したい。

経営企画や業務改革などを担当する部門もDXにコミットすることで、経営と現場の両視点からDXのあり方を議論し、実行に移せるようバックアップしたい。また、システム部門も正確性や継続性を重視する基幹・情報系システムだけでなく、クラウド環境やDevOpsツールを活用しながら、AIやIoTを導入していく「攻めのIT」にも視野を広げることが必要だろう。

多くの日本企業にとって、DXは「どこから手を付けていいのかわからない」という手探りの状況だ。しかし、テクノロジーが中心にある改革とはいえ、それを企業の中で実行していくのは人であり組織だ。経営と現場の意識のギャップを埋め、着実に行動に移せる人材を確保することがDXの最初の一歩になる。

越智 岳人

取材協力:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト
現在はフリーランスとして技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

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