製造業でのAI導入−−成功と失敗をわけるものとは

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深刻な人材不足に直面している製造業にとって、工場の自動化(ファクトリー・オートメーション/FA)は喫緊の課題だ。ロボットを活用した生産設備の自動化や、カメラやセンサーを通じて作業を数値化し生産性向上、そして熟練工が勘と経験をもとに判断していた作業の無人化・省人化など対応すべき課題は幅広い。

こうした取組においてIoTやAIなどの技術を活用することは必要不可欠だが、成功に導くためには、導入しようとしているソリューションや技術が自分たちの現場に適しているかという評価だけでは不十分だ。また、新しい技術に対して過度な期待を持つ余り、その成果を十分に発揮できない事例もある。

政府が2019年6月に発行した「2019年版 ものづくり白書」の中でも、「製造・生産現場のデジタル化に取り組んでいるか」という質問に対し、「取り組みたいが、着手していない」と答える企業が56.9%にものぼっているように、日本の製造業におけるDXは、まだ発展途上段階だ。今後、多くの製造業企業でデジタル化が進むことは不可避だが、先行するケースの中から避けるべき失敗も既に存在している。

今回は製造業の生産現場におけるDX化のなかでも、AI導入を中心に失敗しがちなケースと回避策を紹介したい。

当事者だからこそ起きるAIへの過信

労働者人口の減少によって、リタイアするベテラン技術者のスキルを継承しながら、少ない人数でいかに生産活動を維持・拡大していくかという課題を抱える企業は多い。そうした状況を解決するテクノロジーとして、引き合いに出ることが多いのがAIだ。

目視による外観検査や、生産設備における異常検知、音や温度の変化を見極める作業工程は大企業でもベテラン技術者が担うことが多い。こうした作業をカメラやマイク、温度センサーによって情報を習得し、AIが学習する。その結果をもとに異常時や事故につながるリスクを検知した際にアラートを出すというのが大まかな仕組みだ。

こうしたソリューションはAIベンダーが主導し、ユーザー企業から学習用データを受け取ってAIに学習させることから始まるケースが多い。しかし、ここに落とし穴がある。

導入時のトラブルとして発生しやすいのは、AIが正しく機能せず正常な結果を異常として処理するケースや、逆に異常な結果を正常としてスルーしてしまうケースだ。

こうした状況で一番の悪手は「学習データが不足しているから起きている」と捉え、根本の要因を特定せずにデータ収集やAIの設定調整に時間をかけてしまうことだ。AIベンダー側は自分たちのAIモデルで解決できると考え、ユーザー企業側も「AIがなんとかしてくれる」と根拠のない期待を抱くも、状況が全く改善されないという事例は珍しくない。

AI導入で起きるトラブルの原因の一つに、学習データそのものに問題がある可能性がある。筆者が以前に取材した、カメラによる画像解析からAIで製品のキズや凹みを検査するAI導入プロジェクトで起きた事例をもとに原因を紹介したい。

 

1.NGサンプル数とバリエーションが少ない

そもそもベテラン技術者が担っていた業務であるがゆえに正常なサンプルと、NGサンプルの見分けがつきにくいことに加え、品質レベルが高いことからAIに学習させるだけのNGサンプル数が十分に集まりにくい。そのために少ないサンプル数だけでAIによる処理を行うと過学習が起きてしまう。

こうした状況を回避するためには未知のデータをAIが十分に予測できるよう、データの質と量を十分に用意する必要がある。

過学習とは…

学習用データにAIが最適化されてはいるものの、学習用データ以外のサンプルには対応できず、未知のデータやNGサンプルに対応できない状態を指す。

2.学習データと評価データに大きな差異がある

次に考えられるのが学習用に提供されたデータと、実際に生産現場などで収集するデータに差があることだ。学習用データは実際にAIとセンサーが稼働する現場で十分な量を収集する必要がある。しかし、NGサンプルのデータを別の環境で収集したものを提供すると前提条件が異なってしまうため、学習用データとしては適切ではない。

3.データの収集環境が適切ではない

最後に考えられるのがAI以前の問題で、データの収集環境に問題があるケースだ。

AIによる外観検査は製造ラインの中で稼働させることが大前提だが、設備の環境に合わせたカメラのスペックや対象物との距離、光源などの撮影条件などを正しく設定することだ。光量が足りない場合は照明を追加したり、外からの自然光の影響を受けないよう撮影環境を整えたりするといったケアも重要だ。

また検査対象が一つのカメラではカバーできないサイズの場合には、複数のカメラによる検査が必要だが、ここでもカメラの向きや位置によって検知する情報が異なるため、光源や角度などの撮影条件の設定は複雑になる。

これらの要因に共通していたのはAIで解決することに執着したことで、そもそもAIが処理する際に必要なデータ収集方法を軽視していたことだ。

AIによる業務最適化は現場業務をもとにデータ収集し、AIが解析して現場に反映するというサイクルができて初めて成立する。さまざまな業界で実績があるAIプラットフォームを採用するとしても、AIの性能だけで解決するものではなく、データ収集と学習は個々の環境に最適化させていく必要があるのだ。

現場とDXが手を取り合うことが成功の近道

こうした状況に陥らないためには、現場とAIベンダーの間に入るDX担当者が橋渡し役として双方を正しくリードする必要がある。

まず、現場に対してはAIを導入する意図とメリットを丁寧に説明した上で、社内で収集できるデータを準備するだけでなく、AIがより良いパフォーマンスを発揮するためのデータ収集方法や環境面の準備など、自社でできる努力を怠らないことが重要だ。

一方AIベンダーに対しては、現場の環境やAI導入前のベテラン技術者による作業の様子を正しく把握させることを優先し、データの収集環境や収集方法とプロセスについての正しいインプットを提供すべきだ。AIについてはエキスパートであっても、導入先の企業や業界にベンダーが精通しているとは限らない。不足している情報を積極的に埋めていく役割が、DX担当者には求められる。

こうして現場作業からデジタルデータを収集する現場と、そのデータをAIに学習させ現場に結果を反映させるAIベンダー双方が省人化や自動化といった同じゴールに向けて歩み寄ることが不可欠である。

DX担当者はAIやIoTに関する知識や経験も重要だが、導入先の現場とのコミュニケーションを円滑に進め、時には粘り強く交渉するアナログな能力も時として求められる。

DX人材を採用する際には技術に対する知識や実績だけでなく、現場との交渉やヒアリング能力についても確認する必要があるだろう。

デジタル人材に求められる「翻訳力」

DXのように新しい取組を実行する際には、それまでの取組を担ってきた現場との橋渡しや相互理解が不可欠となる。テクノロジーは利用者側の環境に合わせて最適化する必要があり、そのためには現場とテクノロジーの接点を、なめらかにつなぐ理解者が必要であり、その役割を担うのがDX人材だろう。

最新技術に対する理解や情報収集能力だけでなく、DXが適応された環境で働く人たちや、DXの恩恵を受けるユーザーの行動やインサイトを注意深く観察する能力も、DX人材には必要だということをマネジメントする側も理解することが重要だ。

「AIベンダーに丸投げすればいい」という思考に陥らないことが、上層部・マネジメントクラスにも求められる。

AIやセンシング技術、IoTにまつわる通信技術は未だ発展途上にあり、キャッチアップしていく必要はあるが、そうしたテクノロジーを活用する人間にメリットがなければ、技術は発展しない。テクノロジーに人間が使われるのではなく、テクノロジーを使って人間はどうあるべきなのかという観点を組織全体で持つことがDXを成功に導く近道である。

 

越智 岳人

取材協力:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト
現在はフリーランスとして技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

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