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世界は分散化という選択肢を得る—− アフターコロナで注目のdecentralizationとは何か

公開日:2024/01/30 / 最終更新日: 2024/03/18

出典:Peloton

アメリカのフィットネスジム大手「GOLD’S GYM(ゴールドジム)」のアメリカ本社がアメリカ連邦破産法11条を申請し経営破綻しました。新型コロナウイルスの感染拡大により直営するジムが多数閉鎖。その結果、業績不振が急速に進んだことが破綻の背景にあるとされています。

一方、コロナ禍で青息吐息のフィットネス業界で急成長しているのが、2012年に創業した「Peloton(ペロトン)」です。家庭で使用するエクササイズ用バイクやルームランナーの販売と、オンラインレッスンを提供する同社は、創業から7年で米NASDAQ市場に上場し、時価総額は140億円を超える巨大企業に成長しています。2020年5月に発表された四半期決算でも前期比で66%の売上増となるなど、コロナ禍を追い風にした数少ない企業がPelotonです。


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「ジムは通うもの」という概念を破壊したPeloton


Pelotonのビジネスモデルはトレーニング機器の販売による買い切り型ビジネスと、オンラインレッスンによる継続課金ビジネスの2つで構成されています。提供するトレーニング機器そのものには革新的な機能はありません。バイクは2245ドル(約24万円)ルームランナーは4295ドル(約46万円)と、価格面でも競争力があるわけでもありません。むしろ、市販のトレーニング機器の中でもハイエンドの部類に入る価格です。
さらにオンラインレッスンは月額39ドル(約4000円)と、機器とは別に料金が発生します。Pelotonがフィットネス業界で成長を遂げている理由は、マシンの性能や価格破壊といった点とは別にあります。

魅力的なコンテンツとユーザー体験


Pelotonの勝因は徹底的に作り込まれたユーザー体験(UX)の質にあります。Pelotonのトレーニング機器には大型のタブレットが前面にあり、同時間帯にログインした世界中のユーザーと共にインストラクターによるレッスンを受講しながら運動します。レッスンのデータはPelotonのサーバに蓄積され、トレーニングデータを基にしたランキングの公開や、自分のトレーニング履歴が表示されることで自身の成長を可視化できる機能などユーザーのモチベーションを上手くコントロールする仕掛けが随所に見られます。

また、トレーニング中も画面上にいるコーチから直接呼びかけられて励まされたり、直接やり取りしたりすることも可能です。その他にもPelotonユーザー同士の交流を促進するSNSが利用できるなど、自宅でのトレーニングにありがちな孤独感の払拭と、無理なくトレーニングを継続できる工夫が至るところに散りばめられています。

その裏側を支える組織はフィットネスジムやフィットネス機器メーカーというよりは、データドリブンなIoT企業といったほうが良いでしょう。Pelotonはコンテンツ開発とデータ分析に重点的に投資していて、トレーニングコンテンツやBGMの制作を内製化し、1日あたり数テラバイトにもなるというユーザーのデータをクラウドサーバに蓄積・分析する専門チームやAIによる機械学習を活用したレコメンドエンジンを開発するなど、競合するフィットネスジムとは全く異なる戦略を採っています。

こうした取組がユーザーの満足率を飛躍的に高めた結果、2019年第3四半期決算では会員数約260万人、アクティブ会員率93%と、驚異的な成長を果たしています。

このようにインターネットやAIなどのテクノロジーを駆使し、付加価値の高いサービスを武器に既存のプレイヤーを脅かすことを「”Disruptive Innovation(ディスラプティブ・イノベーション/破壊的イノベーション)」と呼びます。Pelotonは既存のフィットネスビジネスを破壊し、新たな市場を創造しました。こうした変革は、変化に乏しい業界ほど発生した時のインパクトが大きく、どの業界で起きても不思議ではありません。

人間の生活様式を変革するdecentralization


Pelotonのようにテクノロジーを駆使したサービスによって、自宅の外でやっていたことを自宅でもできるようになる現象を「decentralization(ディーセントラリゼーション)」と呼べるでしょう。decentralizationは直訳すると非中央集権。分散化という意味でも使われます。ブロックチェーン技術が登場した際にも、取引情報などのデータを中央サーバではなく、複数のコンピューターで分散して記録する仕様を採用することで、特定の管理者がいなくてもデータの信頼性を担保することから、decentralizationはデジタル社会における重要なキーワードとして注目を集めました。

DXの文脈でdecentralizationを使ったケースを筆者が最初に見たのは今年のことです。米大手ベンチャーキャピタル「SOSV」傘下で、製造業スタートアップに特化した投資と支援を行う部門「HAX」が、アフターコロナで重点的に投資する領域として「decentralization Business」と紹介していたのです。

decentralizationはインターネットの普及前の近代社会から発生していました。例えば100年前は映像作品を鑑賞するには劇場に足を運ぶ必要がありましたが、テレビが登場し、更にはVHS、DVDなどの記録媒体が普及し、現在では配信ビジネスが主流になるなど、テクノロジーの変化とともに常識は覆されてきたのです。

技術革新によるイノベーションはハードウェアだけで起きていました。そこにコンピューターが加わり、1960年代からハードウェアとソフトウェアによるイノベーションが起きます。今日ではインターネットによるデータ流通やAIによる機械学習が加わり、データがイノベーションを牽引するキーファクターになりました。

Pelotonのようなビジネスモデルは2000年代であれば成立しなかったでしょう。トレーニング機器とレッスン用の記録媒体を組み合わせるのが限界で、対面でコーチングするフィットネスジムの牙城を崩すほどの破壊的なビジネスモデルにならなかったことは、これまでPelotonのようなスタートアップが誕生しなかったという事からも歴史が証明しています。

しかし、ハードウェアとソフトウェア、そしてデータを組み合わせるIoT型のビジネスモデルが可能になったことで、これまで「対面が当たり前」「通うのが常識」とされてきたサービスを見直すべきタイミングが来ています。

decentralizationはアナログな業界にデジタルが変革をもたらす、時代の流れを端的に示しています。コロナ禍でUber Eatsなどのテイクアウト・デリバリーが注目されましたが、飲食店に足を運ぶという常識も10年後には古い価値観として見なされるかもしれません。


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分散化を維持するための分散化


decentralizationはサービスの自宅化だけに留まりません。分散化した状況を無理なく維持する環境を構築することも重要なのです。

コロナ禍においてロックダウンした都市に拠点を構える企業を中心に、多くの企業が在宅勤務制度を導入しました。政府による緊急事態宣言が終了してからも在宅勤務を続けるオフィスワーカーも少なくありません。在宅勤務は感染リスクを抑えるだけでなく、通勤が無くなり、緊急度の低い会議や来客を抑えられるというメリットもありますが、組織が分散化したことで、社員に対するケアのあり方にも変化を求める兆しが起きています。

リンクアンドコミュニケーションが、自社の健康アプリユーザーを対象に実施した調査によれば、フルタイムで働いていると答えた3894人のうち、42.7%がメンタルに不安を感じると回答しています。在宅勤務でも健康で生産性を損なうことなく働ける環境を構築することが、ニューノーマル時代における企業の義務となるかもしれません。

こうした課題に対して、ビデオ会議サービスを用いた遠隔診療やカウンセリング以外にも、さまざまなサービスの開発が進められています。米サンフランシスコのスタートアップ「Sentio Solution」は、ウェアラブルデバイスを用いて従業員の健康状況を収集し、AIによるデータ解析サービス「Feel」を提供しています。Sentio Solutionが2020年2月から4月までの利用者データを分析した結果、ロックダウンした都市に住むユーザーの60%から精神的な不調を示すデータが検出したと発表しています。

Feelのビジネスモデルはユーザーから収集したデータをAIで解析することで、単に管理者である企業に通知し、対応を促すだけではありません。医療機関とも連携することで、患者個々の状況に応じた診察方法の設計をAIとデータで支援できることを目指しています。こうしたサービスはFeel以外でも、世界各国で開発が進められています。従業員と企業、そしてメンタルケアに当たる医師などの専門家の三者を適切な距離感でつなぎながら、分散化の維持をサポートするビジネスは、アフターコロナにおいて一層注目を集めることになるでしょう。

デジタル化だけでなく、その後の世界を思考する


decentralizationはIoTやAIといったテクノロジーの恩恵を受けて、既存のビジネスを分散化によって変革させることと、分散化した状態を維持するためのビジネスを創造するという2つの側面があります。
いずれも共通しているのは長きに渡って「こうあるべき」「これが主流」とされてきたものを変えつつあることです。そして、分散化した先にある「孤独」すらもIoTでカバーしようとしている点は、現在のデジタル化が単純な置き換えで済むものではなく、置き換えた後の環境まで配慮すべきだということを示唆しているように思います。

これまで常識と思っていたことがデジタル化技術によって、どのように変わるのか。そして、変わった状況を下支えするために必要なことは何なのかーー多くのビジネスの現場で考え直すべきタイミングが来ているのではないでしょうか。

参考資料
https://www.linkncom.co.jp/news/press/339/

https://www.businesswire.com/news/home/20200507005691/en/Physiological-Data-Collected-Wearable-AI-Powered-Technology-Reveals

ライター

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越智 岳人

編集者・ジャーナリスト

現在はフリーランスとして技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。


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