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鍵はテクノロジーの目利き力−−小売業のDXの現状

公開日:2024/01/30 / 最終更新日: 2024/02/19

遅々として進まなかった小売業のDX


日本の小売業において、長年の間デジタル化の重要性は説かれていたものの、実際は遅々として改革が進まない状況だった。しかし今回のコロナ禍は、さまざまな小売企業に変革を促している。店舗に足を運ぶことに抵抗を感じたり、長時間の滞在を忌避したいと考える利用者が増加。非接触決済のシェアも増え、ECの売上も伸長している。日本の小売業はもはやDXを避けられない状況だ。

このような状況において、今流通小売業界のDXで注目されているトピックスをいくつか紹介したい。

レジ体験を変える「ウォークスルー」と「スキャン・アンド・ゴー」


現在多くの企業が着手しているのが「レジと決済」のDXである。少しでも省力化しようと各社実験を重ねており、セミセルフレジやフルセルフレジ、非接触決済が多くの企業で導入されるようになった。そして次の一手として注目を集めているのが「ウォークスルー型」と「スキャン・アンド・ゴー」の仕組みである。

「ウォークスルー型」は天井に設置されたAIカメラによって利用者が手にとった商品を特定。店舗を出るときに、あらかじめ登録しておいたカードやアカウントから自動的に代金を引き落とす仕組みだ。海外ではAmazonがAmazon GOという店舗で実用化しており、全米に26店舗を展開している(2020年8月現在。ただしコロナ禍の影響で休業中の店舗もあり)。日本国内では、JR山手線高輪ゲートウェイ駅内で実証実験を行っているJR東日本グループの「TOUCH TO GO」などがある。

今後普及が見込まれるもう一つの決済方法が「スキャン・アンド・ゴー」と呼ばれる方式だ。レジカートにバーコードスキャナーのついたタブレット等がついており、利用者自身が店内で商品をスキャンしながら買物をして、店舗を出たところで決済を行う。レジカートを使わずに、スマートフォンアプリで商品登録するものや、専用の端末を使うものなどもある。

こちらは利用者自身が商品バーコードをスキャンする必要があるので、万引きやスキャン忘れによりロス率が高くなりがちだった。しかしレジカートに重量計をつけて、カートに掲載された商品の重量合計と、スキャンした商品の重量合計とに差異があった場合にアラートを出すなどの牽制策を施すことにより、ロスが減り実用化への期待が高まっている。

2020年7月にはAmazonが「Amazon Dash Cart」の構想を発表。日本ではディスカウントストアなどを運営するトライアルがレジカートという名称で一部店舗に導入していたり、イオンが専用端末でスキャンする「レジゴー」を実験的に導入している。

(画像出典元:Amazonのウェブサイトより)
(トライアルのタブレットカート)

店内行動のすべてをデータ化する「AIカメラ」


小売業界のDXに関する話題のなかでも、AIカメラの活用はホットなトピックスの一つだ。店舗に設置されたAIカメラで利用者の行動を取得・分析し、さまざまな分野で活用しようというものだ。

たとえば、これまで店舗の商品レイアウトを評価するためには、入店した利用者を尾行して、鉛筆でレイアウト図に線をひいて記録するというアナログな方法で分析をしていた。しかし昨今ではAIカメラによって、利用者の店内での回遊状況が自動的にレイアウト図上に可視化されるようになり、レイアウトの改善の一助となっている。

利用者の店内における行動情報というのはメーカーにとっても魅力的なデータだ。利用者が棚前で立ち止まったのか、商品を手に取ったかどうかなどが数値化され、新製品開発に活用されることが期待されている。AIカメラは、店内混雑度の可視化やレジ待ち人数をカウントし、レジ解放を自動判断するなど、店舗運営にも活用できる。

AIカメラの店頭活用の事例の一つとして興味深いのは、今年日本に進出した、サンフランシスコのスタートアップ「b8ta」(ベータ)だ。2020年8月に有楽町と新宿に2店舗をオープンした。

(b8ta有楽町店)

店舗を持たず、開発した商品をオンラインのみで販売する「D2C」企業が昨今勢いを増している。そのD2C企業がインターネット販売の次に目指すのが実店舗での展開だ。しかしいざ実店舗で商品を販売する場合、EC専業に比べると非常に出店コストは高く、リスクも大きい。

b8taはそんなD2C企業に向けて、店舗の中の決められたスペースを月額30万円で提供する。出品者は、店内に設置されたAIカメラから取得された利用者の商品への立寄率や通過率、滞在時間などの情報をダッシュボードで確認することができる。ここでの売上は100%出品者に還元される。このように顧客データなどを活用して小売業を支援するサービス全般を「Retail As A Service (RaaS)」と呼ぶ。

(b8taの店内)

「オムニチャネル」と「BOPIS」


店舗におけるDXのトピックスとして、インターネットで購入が完結するECやネットスーパーが伸張しているのはもちろんだが、「オムニチャネル」のなかでも「BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)」の普及も注目すべき点だろう。

国内では2013年ごろからオムニチャネルという概念が登場した。「店舗購入」「インターネット購入」「自宅受取」「店舗受取」のチャネル間をシームレスにつなぎ、購買行動をより便利にしようとするものだが、在庫データの精度の低さや、組織間の壁を取り払うことができないなどの理由で、日本ではなかなか浸透しなかった。

先行する欧米では既に「ネット注文・店舗受取」が一般的になっている。アメリカではウォルマートがピックアップタワーという「ネット注文・店舗受取」のための受取拠点を店頭に展開し、ホームセンター大手のホーム・デポは店頭のロッカーで商品の受取ができる。

(ホームデポのピックアップロッカー)

日本国内においては、飲食店を中心にここ1、2年でやっと実用的なBOPISが登場してきた。無印良品やユニクロ、ヨドバシカメラなどは、ネットで購入した商品の店舗受取が可能だ。実験段階だがホームセンターのカインズも、注文した商品をロッカーで受け取れるサービスの提供を開始した。そしてこのコロナ禍によって、BOPISのニーズは急速に高まった。特に飲食店においては、この数か月でさまざまなピックアップアプリが登場。突如レッドオーシャン化した感さえある。小売業にもこの流れは波及するだろう。

リテールメディア化


最後に、小売業が新しい金脈と考えている店舗の「リテールメディア化」を紹介する。これまでメーカーは巨額の宣伝広告費を、テレビCMをはじめとするマスメディアに投入してきた。しかしこの効果が薄れてきており、次の宣伝メディアとして有力視されているのがリテールメディアだ。

小売業と消費者の接点には、店頭に設置されたサイネージやスマートフォンアプリ、各種SNS、ダイレクトメールなどさまざまなものがあるが、リテールメディアでは顧客の行動に併せてタイミング・内容などを最適化した広告を送付し、店頭、もしくはネットでの購買につなげる。

アメリカのスーパーマーケット大手「クローガー」は、商品を陳列する棚板をサイネージ化し、リテールメディアとして活用する取り組みを行っている。広告を出稿するメーカーは、インターネット広告のように、ブラウザから画像や動画のデータをサーバにアップロードして、設定した予算で、どの地域でどれぐらいのインプレッションを得られるかなどまで予測して出稿。出稿による反応は、AIカメラで分析され、効果測定もできる。これも前述したRaaSの一つといえる。

(クローガーのリテールメディア。棚板の部分がサイネージになっている)

 まとめ


本稿では、小売業における顧客接点のDXについて言及したが、それ以外にも店舗運営、従業員教育、物流…等々、あらゆる分野でのDXが求められている。

こと小売業のDXに関しては、新分野を開拓して先行者となるよりも、技術・環境が熟した分野で適切な技術を選択し、タイミングよく投資する目利き力が重要だ。そしてどの小売業も、他業種を含む広い分野から、小売業のDXを推進する人材を採用しようとしていると同時に、IT企業と提携して新サービスを提供していこうとしている。どの企業も手探りで未開拓の分野が多い業務ではあるが、伸びしろの多さ、人々の生活に直結するという面で小売業のDXは非常にやりがいのある魅力的な仕事といえるだろう。

ライター

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鹿野 恵子

編集者・ジャーナリスト

WEBメディア「MD NEXT」(https://md-next.jp)編集長。1978年宮城県仙台市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、アスキー、商業界、ITベンチャーを経て2018 年より現職。一貫して流通小売業とITを軸にした活動を続ける。twitter:@keikoka


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