フランスが国を挙げてオープンイノベーションを促進する
「フレンチテック」に日本企業が学べること
公開日:2024/01/31 / 最終更新日: 2024/02/19
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テクノロジーという印象が薄かったフランスですが、近年はスタートアップが爆発的に増え、アメリカ、中国に次ぐスタートアップ大国に変わろうとしています。それに併せて、フランス国内の大企業との連携も加速し、DXを後押しする流れに拍車をかけようとしています。
フランスのオープンイノベーション事情に詳しい上村遥子氏に、世界から注目を集めている「フレンチテック」とはどのような取り組みなのか、フランス最大のテック系見本市「Viva Technology」の特色、そこから日本の企業が学べることについてお聞きしました。
インタビュイー 上村 遥子 氏
SUNDRED株式会社 コミュニティデザイナー
WEB・モバイルのデジタルマーケティング業界を経て、2016年、国内最大級のものづくり支援スペースDMM.make AKIBAへ参画。フランス政府の起業家支援プログラムLa French Techとの連携活動を通して日仏オープンイノベーションについても講演など行う。2020年9月より、複業およびフリーランスとして活動開始。新産業を100個作り出すSUNDRED株式会社でのコミュニティデザイナーに就任。
政府主導のスタートアップ支援キャンペーン
「フレンチテック」は、フランス政府が主導するさまざまなスタートアップ支援プログラムの総称であり、またフランスのスタートアップ・エコシステムの存在を国内外に知らしめるキャンペーンだともいえます。
2013年にスタートしたフレンチテックは、各都市にスタートアップのエコシステムをつくって互いに連携させること、それによって成長を加速することを第一の目的に、さまざまなプログラムを展開してきました。
ここでいうエコシステムとは、起業家、ベンチャーキャピタルをはじめ、最先端の研究開発を行うスタートアップを育ててビジネスに結びつけるNPO「Hello Tomorrow」、巨大インキュベーション施設「STATION F」、無料で受講できるプログラミングスクールの「42」など、さまざまな個人、組織、施設を集積させ、イノベーションを生み出していくコミュニティであり拠点です。これらが密に交流・連携する仕組みができ上がっていることが、フレンチテックの1つの特徴です。
この動きはフランス国内に閉じたものではなく、海外のエコシステムともリレーションをつくることで、国内のスタートアップの海外展開を支援したり、逆に海外のスタートアップをフランスへ誘致したりして、産業の拡大を図ってきました。現在は国内のエコシステム13拠点、連携先となる海外のエコシステムは東京を含む34拠点に及びます。
CESにフランスのスタートアップ約200社が出展し一躍有名に
具体的なプログラムにはさまざまなものがありますが、特に有名なのが「フレンチテックビザ」というもの。これは、フランスで起業したい人、それからフランスのテクノロジー企業で働きたい人を誘致するためのビザで、このビザが下りると、申請した本人がフランスで起業・就労できるだけでなく家族の滞在も可能となります。またフランス国内の拠点の施設等を無料で使えるなど、さまざまな優遇を受けられます。
フレンチテックが国際的にも広く知られるようになったきっかけは、2017年のCESです。フランスのスタートアップ約200社が出展し、開催国のアメリカに次ぐ数で存在感を示しました。来場者の間で「このピンクのニワトリは何だ?」と大きな話題になりました。ちなみに「ピンクのニワトリ」というのは、フレンチテックのロゴのことです。
その後もフレンチテックは成長・拡大し、注目度も高まりつつあります。現在、フランスには1万社以上のスタートアップが存在するといわれています。日本のスタートアップの数は正確には分かりませんが3000社ほどと聞いているので、比べるとかなり差があります。
シードラウンドとシリーズAの投資件数も2014から2017年の間で約3倍に増え、ユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の非上場スタートアップ)が2017年時点3社から、現在7社にまで増えました。フレンチテックの取り組みによって生まれた雇用の数は、これは2018年の数字ですが、2万5000といわれており、非常に良い成果が出ています。
主導しているのは政府ですが、エコシステム内の各プレーヤー自身が動きやすいよう、「フレンチテック」という呼称やロゴなどを自由に使ってよいことになっており、柔軟な姿勢で運営されている点がユニークです。最初にお話しした通り、フレンチテックは「キャンペーン」という見方もできます。フレンチテックを一つのブランドとして国内外に売り込んで行く様は、フランスらしくもあり、マーケティング施策として非常に長けていると思います。
オープンイノベーションの祭典「Viva Technology」
フランスにもCES同様のテック系見本市として、2016年にスタートした「Viva Technology」があります。これは政府主導のフレンチテックとは別軸の動きで、レ・ゼコーという新聞社とピュブリシス・グループという広告代理店の仕掛けによるものです。年々急速に成長していて、2019年には約1万3000社が出展、投資家が3300名参加、3日間の開催期間に125カ国から12万4000人以上が来場したといいます。
私も2018年にVIVA TECHNOLOGYへ行きましたが、面白いのは大手企業の存在です。こうした展示会は各スタートアップがバラバラにブースを持つのが一般的ですが、VIVA TECHNOLOGYでは大手企業が大きなパビリオンを持ち、その中に大手企業と協業するスタートアップがブース出展する建て付けになっているのです。
エリアに大手企業の看板が掛かってはいますが前面に出るわけではなく、一緒に協創を進めているスタートアップを“見せびらかす”ようなかたちになっている、「パリ発のオープンイノベーションの祭典」と銘打つVIVA TECHNOLOGYの特徴的な部分だと思います。
なりふり構わず自社の課題をオープンにする大手企業
大手企業は、ラ・ポストという日本における日本郵便のような組織や、エアバス、LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)、ロレアル、BNPパリバ、ダッソー・システムズなど、各産業カテゴリのトップレイヤーの企業、それも世界的に知られているような“超大手”が名を連ねています。
Viva Technologyの1つの目玉になっているのが、これら大手企業が課題を提示し、そのソリューションを公募する「スタートアップチャレンジ」という企画です。大手企業が出す課題には、さまざまなものがありますが、私が見た中で面白かったのは、「郵便物が最後まで届かないケースが多い。どうすれば解決できるか?」というラ・ポストの課題でした。普通は大手企業だったら絶対表に出したくないだろうと思える課題を、恥も外聞もなくオープンにしてくるところがすごいなと思いました。
多様な人々がさまざまなかたちでVIVA TECHNOLOGYに参加
会場を歩き回ると、本当に多様な人々が来場しているのが分かります。私が出会った人たちの話をいくつか紹介しましょう。
まず、各社からCxOの肩書を持つ人が多数会場に来ています。私が話しかけた人は「CIO」の肩書でしたが、チーフ・インフォメーション・オフィサーではなくチーフ・イノベーション・オフィサーだと言っていました。CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)の方も普通に会場内を歩いていますし、普段はアポをとらなくては会えないような大手企業の経営層の人から、気軽に直接話を聞けるのは印象的でした。
日本にも支社があるBNPパリバの人から面白い話が聞けました。彼らは100名を越える行員をスタートアップ各社に、CFO・財務担当者として送り込んだのだそうです。スタートアップの立場に立って銀行を上手く使うやり方などを学びながら、彼らのスピード感を体得するのが狙いだったといいます。交渉が難しく、また社内からの反発もあり一筋縄にはいかなかったようですが、大手企業がこの取り組みを実際に「やる」と決断するのは容易ではなかっただろうと思いました。
LVMHのパビリオンを歩いていた高齢の男性と話してみると、実はその人もスタートアップ起業家で驚きました。LVMHグループではシャンパンやワインを生産していますが、彼はそのワイン畑の土壌の状態を、人工衛星の観測データをもとに管理する技術を提供しているのだそうです。
3日目最終日は一般公開の日になっていて、子どもから老人までもが来場するのもViva Technologyの特徴的なところです。いわゆるスタートアップ“界隈”・テック系“界隈”に閉じずに、自分たちのやろうとしていることが一般の人の目にどう映るのか、彼らからのフィードバックを非常に大事にしていることが分かります。
トークセッションも数多く、会期中はひっきりなしに行われます。大手企業のCIOや役職者と起業家たちがディスカッションしたり、自分たちの技術やプロダクトをプレゼンしたり。あとは人材採用のためのブースもいくつか見かけました。
各業界のトップレイヤーの企業がどんな課題を持ち、今後どのような技術革新に向けてどう動いているのかが全てオープンに共有されていること、会場を歩き回ればイノベーションの潮流が生々しく把握できることが、VIVA TECHNOLOGYの面白いところだと思います。
既存の事業の枠組みを超える大手企業たち
化粧品会社のロレアルが興味深い展示をしていました。ロレアルのブースは体験型のものが多く、例えばバーチャル・ヘア アドバイザーというものがありました。これは、拡張現実(AR)と音声認識の技術を組み合わせたもので、画面に映った自分の姿を見ながら声で好みの色を指示すると、画面の中の自分の髪色が変わり、自分に似合う色味を確認できるというものです。
ほかにも、グループ会社であるジョルジオ・アルマーニ・コスメティックスによる口紅の自動販売機の体験ができたり、ロレアルの子会社であるランコムの、香水のボトルを3Dプリンティングで制作する技術が実演されていたりと、「化粧品会社」の枠を越えてハードウェアの開発に進出している様子が分かりました。
フレンチテックから日本の企業が学べるもの
フランスの例をお話ししましたが、海外ではこのように大手企業とスタートアップが手を組んでDXが推進されていることを、まずは認識することではないでしょうか。実態を知るほどに、危機感を感じずにはいられないと思います。
BNPパリバの話を先ほど紹介しましたが、彼らが「一筋縄ではいかなかった」というように、大手企業なりの動きの遅さや社内の反発がある中で、なにもかもスムーズに上手く行っているわけではありません。しかし失敗を恐れずに「自分たちはできる」と確信して道を切り開いていこうとしています。
「デジタル人材」などと難しく考えなくても、今の若い人はデジタルネイティブですから、彼らが組織で活躍するようになれば当たり前のようにデジタル化は進んでいくでしょう。それよりも、自社のビジネス構造が今後も同じかたちで続いていくのかという視点を持ちつつ、世界に目を向けて、その中で今自分たちがどの辺りにいるのかを再認識することが大事だと思います。
日本でも多くの大手企業がそれぞれ個別にアクセラレーター・プログラムを実施していますが、フレンチテックはそれらを互いにつなげ、ある種「束になって」取り組むことで大きな力を生んでいるように見えます。ロレアルがハードウェアにも領域を拡大しているように、組織や業界の枠を一度取り払って、自分たちのコンピタンスは何か、自分たちの技術で社会に何を提供できるのかを考えることが必要ではないでしょうか。
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