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霞が関DXの司令塔 デジタル庁が民間採用を本格始動−−民間企業はどう見るべきか

公開日:2024/01/30 / 最終更新日: 2024/03/18

2021年9月に発足するデジタル庁の民間採用が話題になっていますが、デジタル人材の採用を進めている企業の人事担当者にとっても気になる動きなのではないでしょうか。

政府のデジタル改革の核となるデジタル庁とはどのような組織になるのか、人材採用の規模感や選考プロセスなど、現段階で公になっている情報をもとに整理し、自社の採用戦略に生かせる情報を提供します。


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デジタル社会実現に向けた「司令塔」となるデジタル庁


2020年9月16日に内閣総理大臣に就任した菅義偉首相は、就任直後の記者会見において「デジタル庁の新設」を打ち出しました。同時に、デジタル改革担当大臣のポストを設け、2018年から前政権で情報通信技術(IT)政策担当大臣を務めていた平井卓也氏を起用することを発表しました。

その後、平井大臣はデジタル庁の準備室を立ち上げ、デジタル・ガバメント閣僚会議とその配下に組織されたデジタル改革関連法案ワーキンググループを通じて、有識者とともにデジタル改革の基礎理念や、IT基本法の改正を主軸とした関連法案の整備などの検討を進めました。

それが具体的なかたちとなったのが、2020年12月25日の閣議で決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針の概要」です。政府の主導するデジタル改革が何を目指しているのか、具体的に何をするのかが簡潔にまとまっており、デジタル庁が担う役割が広範にわたることが分かります。

出典:首相官邸ホームページ「デジタル庁創設」

この中で、デジタル庁は他省庁のデジタル施策に対し勧告権を持つなど「強力な総合調整機能」を有するとしています。

さらに、国の情報システム全体についての基本方針を策定し、予算を一括計上することで、これまで各省庁で個別に構築・運用されていたシステムの統括・管理を行うほか、重要なシステムは自ら整備・運用するとうたっています。

また、省庁間や地方自治体との連携をスムーズにするため、共通のデジタル基盤をクラウドで整備するほか、データ利活用をしやすくするために住民情報や法人、不動産、地理など社会の基盤データとなる「ベースレジストリ」を早期に整備するとしています。

デジタル庁発足に向けた国の採用戦略


この「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針の概要」が発表されたのと同時に、「2021年秋頃」とされていたデジタル庁の発足時期についても「9月1日」という明確なスケジュールが示されました。

そして、それまでに約100名のデジタル人材を民間から採用し、他省庁からの出向と合わせて500名体制でスタートする見通しであること、発足に向けた先行プロジェクトに2021年4月1日から着任する約30名の公募を行うことが明らかにされました。

出典:内閣官房ホームページ

実際の公募は内閣官房のIT総合戦略室が行い、応募受付期間は2021年が明けてすぐの1月4日から22日まで、12ポジション(下記参照)を募集しました。

いずれのポジションも週3日までの非常勤の国家公務員としての採用です。服装も自由、テレワークや兼業、フレックスタイム制など柔軟な働き方を認めるとするほか、高スキル人材については年収換算にして1000万円超で処遇する可能性についても言及し、注目を集めています。

<採用予定職種>

情報発信基盤(デジタルサービス)
プロジェクトマネージャー(デジタルサービス)1名程度
ベースレジストリ
プロダクトマネージャー(シニアデータスペシャリスト)1名程度
ガバメントクラウド
クラウドエンジニア4名程度
ネットワーク一元化
プロジェクトマネージャー(政府共通ネットワーク等)3名程度
ネットワークエンジニア6名程度
システムオペレーションマネージャー3名程度
アプリケーション開発エンジニア3名程度
新システム企画構想
プロジェクトマネージャー(システム企画)5名程度
ITストラテジスト3名程度
ITマネジメントスペシャリスト1名程度
プロジェクトマネージャー(政府共通プラットフォーム等)2名程度
民間人材リクルーティング
リードリクルーター1名程度

公募の終了後、計33名ほどの採用枠に対し、20〜70代の1432名が応募したことが明らかにされています。平井大臣はその旨を自身のTwitterアカウントでも報告し、「今後も必要な人材については順次募集を行います」とも述べていました。

選考プロセスは、技術面接1回を含む3回程度の面接を行う(リクルーターは技術面接なし)とされていました。この記事を書いているのは3月下旬ですが、おそらく既にに選考は終わっており、記事が公開される4月には先行組の民間人材が正式採用され、デジタル庁発足準備を加速することでしょう。

アメリカでみられるような、民間企業と政府の間で人材が行き来してキャリア形成を図る「リボルビングドア(回転扉)」と呼ばれる仕組みを政府は念頭に置いているようですが、デジタル庁設立の成否は、そのようなデジタル人材のキャリア形成のあり方が日本の民間企業はもとより、中央省庁においても根付くかどうかの試金石ともいえるでしょう。

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組織横断の改革を進めるデジタル改革関連法案―5つの柱


公募期間中の1月18日に始まった通常国会の施政方針演説の中で、菅首相はデジタル改革について次のように述べています。

「デジタル庁の創設は、改革の象徴であり、組織の縦割りを排し、強力な権能と初年度は3000億円の予算を持った司令塔として、国全体のデジタル化を主導します。1兆円規模の緊急対策として改革に着手し、全国規模のクラウド移行に向け、今後5年間で自治体のシステムも統一・標準化を進め、業務の効率化と住民サービスの向上を徹底してまいります。」

続けて、マイナンバーカードの普及や健康保険証・運転免許証などとの一体化、データ利活用のために行政機関が保有するデータ基盤(ベースレジストリ)を整備すること、教育など公共分野と行政のサービス向上などにも改めて触れているほか、民間企業のデジタル投資を支援する税制の整備にも言及しました。

2月9日には5つの法案からなる「デジタル改革関連法案」が閣議決定され、3月9日から衆議院本会議で審議入りしました。

デジタル改革関連の5法案(平井大臣のブログより)

・IT基本法を廃止し、新法として定める「デジタル社会形成基本法案」

・デジタル庁の組織や所掌などを規定する「デジタル庁設置法案」

・個人情報保護関係3法の統合や押印・書面手続きの見直しなどの改革に必要な制度改正を盛り込んだ
「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」

・緊急時の給付金や児童手当などの公金給付に登録した口座の利用を可能とする
「公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録に関する法律案」

・本人同意を前提とし、相続時や災害時において、預貯金口座の所在を国民が確認できる仕組みを創設する
「預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律案」

5法案は今国会での成立を目指して審議が進められているところです。

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必要に応じてポジションを設けるジョブ型の採用へ


施政方針演説の中で菅首相は、「組織の要は人です」と発言しました。続けて「公務員の採用枠にデジタル職の創設を検討し、高度なスキルを持つ民間人材を迎え、自治体・民間とも行き来させ、官民のデジタル化をダイナミックに進める」とも話し、デジタル人材の確保に向けて注力する意欲を強く感じさせました。

1月に行われた公募を見ると、従来の公務員採用と大きく異なる点が見受けられます。

その1つは、必要に応じてポジションを設けて採用する「ジョブ型」の採用を取り入れたことです。従来の官庁の中途採用は、希望者にまず公務員試験を受けてもらい、合格者を採用してから配属を決めるかたちでした。

今回の募集主体となった内閣官房のIT総合戦略室でも、エンジニアを採用する際の職種タイトルはどんな仕事をするかにかかわらず「CIO補佐官」と決まっていました。民間企業が、「総合職」として採用するのと似ています。

しかし今回のデジタル庁の採用においては、採用予定職種それぞれのジョブディスクリプション(職務記述書)が明確に示されました。大企業のように総合職の名目でざっくりと採用してから配属先を決めるのではなく、その時々で組織にとって必要なポジションを明確にし、そこに合う人を採用する手法は、これまでの公務員採用では見られなかったやり方です。

デジタル改革における組織運営の要は「デジタル人材を評価できる人を採用する」こと


平井大臣は就任直後に、「Government as a Startup」というスローガンを掲げ「小さく産んで、大きく育てるスタートアップの考え方に近い組織にしたい」と話していました。
実際に、デジタル庁は民間を手本に、創設に向けてスタートアップさながらのスピード感で動いています。

もう1つ、先行するプロジェクトに直接携わるエンジニア・IT人材のほかに、「リードリクルーター」を募集していたことも特徴的です。
従来は、エンジニアの採用であっても面接は基本的に各省庁の職員、つまり非エンジニアが行っていました。

しかし今回の募集におけるリードリクルーターの応募条件を見ると、必須条件として「HRTechツールの活用、ダイレクトソーシング、採用イベントの立案実行など、幅広い採用経験」が挙げられているほか、歓迎条件にも「ソフトウェアエンジニアの経験、エンジニアリングへの理解」「エンジニアリクルーティングの実務経験」が挙がっており、仕事内容や働き方、キャリア観なども含めてエンジニアを中心とするデジタル人材への理解が求められていることが分かります。

また、エンジニアの採用においては、日本CTO協会の理事と有志メンバーが選考に関わったことが明かされており、技術面接を含めて選考に協力したものとみられます。

民間企業でもDX推進が命題となっていますが、これまでに採用した経験がない人材を採用しなければならないため、採用要件をなかなか決められずにいたり、どうにか採用活動をしていても選考時に「採用すべきかどうか判断できない」事態に陥ってしまったりという話をよく聞きます。

そのような企業にとって、「デジタル人材を評価できる人をまず採用する」取り組みは参考になるのではないでしょうか。

近年はメガベンチャーやスタートアップを中心にリファラル採用で優秀な人材を迎えることも珍しくありません。従来型の採用試験にこだわらず、採用手法の多様化をキャッチアップすることや、応募者のスキル要件や技術者のトレンドを採用人事がしっかり把握し、エンジニアと同じ目線で話せる体制づくりは、官民問わず今後のDX人材採用に欠かせない要件になるかもしれません。

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デジタル庁は採用競合?


一方で、今デジタル人材を採用しようとする企業にとっては、デジタル庁が競合になるともいえる状況です。

デジタル庁が採用する民間人材の給与水準が実際にどの程度になるか現時点では分かりませんが、各種雇用条件だけでなく、「服装自由」「テレワーク可」「兼業可」といった働き方や環境も含めて、「デジタル人材を採用するならこの程度の条件は揃えておきたい」というモデルが示されたと考えるべきではないでしょうか。

民間企業においても、デジタル庁をめぐる採用・組織づくりを注視しながら、自社の採用戦略や手法を点検しておくことが必要ではないでしょうか。

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ライター

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畑邊 康浩

編集者・ライター

語学系出版社で就職・転職ガイドブックの編集、社内SEを経験。その後人材サービス会社で転職情報サイトの編集に従事。
2016年1月からフリー。HR・人材採用、IT関連の媒体での仕事が中心。

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