「エコは儲からない」は過去の話、世界中で急成長する気候変動テック

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世界銀行が2021年9月13日に公開した報告書 は、気候変動対策に対する警鐘を強く鳴らす内容でした。

「Groundswell(大きなうねり)Part.2」と題された報告書では、ここ数年で加速する気候変動が6つの地域に与える影響をモデル化し、各地域の経済リスクを分析。

気候変動による海面上昇や水不足、一次産業の生産性低下によって、2030年には国内間の移住を迫られる人が全世界で2億1600万人になる可能性があると指摘しました。

 

 

報告書は先進国や中東各国が含まれておらず、他国への移住も含まれていないため、気候変動による全世界の移住者数ははるかに増えることが予想されます。

こうした気候変動をテクノロジーで解決しようと、世界各国で新たなビジネスや企業が誕生しています。

 

 

目次

 

 

 

1.エコ=儲からないと判断された理由

日本でも2020年10月に菅首相がEUの掲げる目標に合わせ、温室効果ガスの排出量を2050年までに実質ゼロにすることを明言しました。その後、経済産業省がNEDOを通じて2兆円規模の基金(グリーンイノベーション基金事業)を設立しました。

EUでは気候変動対策を次世代の産業戦略と捉え、約1兆8200億ユーロ(約235兆円)規模の基金を設立しています。
米国のバイデン大統領も2兆ドル(約220兆円)を超えるインフラ投資を通じて、脱炭素化やEV化などの脱炭素対策を進めています。

 

 

20世紀後半から気候変動対策の重要性が唱えられてきた中で、国家がようやく重い腰を上げましたが 、環境問題をビジネスとして捉えるムーブメントに対して、経済界からは決して十分な支援を集められていませんでした。

気候変動テックはベンチャーキャピタル(VC)との相性が悪く、米国では2001年から2008年ごろにかけて環境問題に取り組むスタートアップへの投資が急加速した時期があったものの、巨額の資金に見合うだけの成果は出せませんでした。その背景の一つには時間軸の違いがあります。

VCが定義する投資からイグジット(M&Aや株式上場)までのタームは、およそ5〜7年であるのに対し、研究開発にそれ以上の期間を要するスタートアップとは時間軸が合わなかったことが要因の一つに挙げられます。

 

しかし、全ての投資が失敗したというわけではありません。電動バスのProterraや電気自動車や蓄電池を開発するTesla、Googleに32億ドル(約3300億円)で買収されたNestなど、大成功を収める企業が誕生したのも事実です。

過去に「エコは儲からない」という雰囲気が作り出されていたのも、長期間の研究開発に対する投資や、事業開発における道のりの長さが要因でした。

 

 

気候変動テックが再び活気を見せている理由はなぜでしょうか?近年の異常気象による災害の多さから、この分野に対する問題意識が差し迫っていることは言うまでもありません。それに加えて、再生可能エネルギーの価格が大幅に下落したのも大きなポイントです。

この10年で太陽光の発電コストは8割、風力は6割ほど下落しました。
充電・蓄電池の低コスト化も進み、大型の蓄電池を一般家庭に設置することも少なくない 状況になりました。コストの劇的な低下はイノベーションを生み出す主な原因の一つです。これまで「儲からない」と思われていたビジネスも、ハードウェア面の基礎技術や 発展に、ITやDXなどのソフトウェアやインターネット技術が合流することで、風向きが大きく変わろうとしているのです。

 

 

2.あらゆる業界に関わる気候変動テック

気候変動テックの例としては、代替燃料や大容量・高速給電バッテリー、高効率照明や空調システム、資源効率の高い消耗品生産などが挙げられます。
前回ご紹介したフードテック(※)も代替肉など畜産よりも環境負荷の低い食料品生産という観点では気候変動テックに該当します。

※参考記事…代替肉、調理ロボット、アレルギー対策——日本でも加速するフードテックとは

 

業務プロセスや生産工程の中で発生する環境負荷に対するソリューションも含まれるので、対象となる業界は幅広く、無関係な業界はほとんど存在しません。

気候変動テックがいかに多様性に富んだものか、代表的な例を挙げながら紹介しましょう。

 

 

Tesla出身のエネルギースタートアップ:Form Energy

(画像出典:Form Energyのウェブサイトより)

 

Form Energy は鉄空気蓄電池を開発する米国のスタートアップで、EVのトップ であるTesla出身者を中心に2017年に創業しました。

 

現在、蓄電池の主流はリチウムイオン電池ですが、近年の大容量化に対する需要から、より蓄電能力が高く、より安全性の高いバッテリーを開発するスタートアップが世界中で競合している状況です。同社が開発する鉄空気蓄電池は電極を鉄に接続して、鉄の参加・還元反応を可逆的に利用する二次電池であり、1MWの電力を150時間も供給できます 。また製造コストもリチウムイオン電池の10分の1まで理論上下げられることから、ビル・ゲイツの投資会社や鉄鋼世界最大手の一つであるArcelor Mittal(ルクセンブルク)から出資を受けています。

 

 

電気自動車に採用されているリチウムイオン電池は走行時に温室効果ガスを排出しないことから、環境に優しい車 と見なされていますが、製造時に排出される温室効果ガスの量はガソリン車を上回ると複数の研究機関から 指摘されています。
こうした課題から製造時にも環境負荷がかからないバッテリーや、鉄のように調達が簡単 でリサイクル性の高い素材を使用した次世代バッテリーは今後も注目を集めるでしょう。

 

 

3.エコなオーダーメイドをデジタルで実現するunspun

(画像出典:unspanのウェブサイトより)

 

unspun は3Dスキャンを活用したオーダーメイドによるジーンズを製造・販売する米国のスタートアップです。

創業者のKevin Martin(ケビン・マーティン) 氏は、コロラド大学ボルダー校で機械工学を学んだ後に、unspunを友人と共同で創業。製造時の繊維廃棄物や在庫を極限まで削減するビジネスモデルで大手アパレルメーカーのH&Mと提携し、2020年にカスタマイズジーンズのオーダーアプリを使った実証実験を 実施しています。

 

同社は地球上の二酸化炭素排出量を最低でも1%削減することを企業目標に掲げており、注文システムの自動化と製造・サプライチェーンの効率化を図ることで、大量生産・大量消費のアパレルビジネスからの脱却を図っています 。unspanはユーザーのスマートフォンによるスキャンデータを活用していますが、スキャンの精度やソフトウェアによるデータ補正の精度が今後の成長の鍵となるでしょう。

 

 

ただ、一部のスマートフォンではクルマの自動運転技術にLiDARが採用されるなど、スマートフォン側のスキャン技術も成長しています。優れたソフトウェアを開発できれば、unspanは自社のシステムを提供するSaaSベンダーにピボットすることも可能であり、まさにDX時代のアパレルメーカー戦略の頂点に立っている といえるでしょう。

 

 

4.二酸化炭素回収プラントを開発するClimeworks

ゼロ・カーボン化を実現するにあたって注目 されている技術の一つがカーボンキャプチャー(二酸化炭素吸収)です。

大気 中のCO2(二酸化炭素)を直接回収し、メタンやメタノールなどのエネルギーに変換する研究開発が進められています 。

 

スイスのスタートアップClimeworks は年間4000トンのCO2を回収するプラントをアイスランドに設置する予定 で、Microsoft傘下のファンドから1億ドル(約110億円)の出資を受けています。

カーボンキャプチャー技術の歴史は浅く、約20年前からさまざまな企業や研究機関が回収方法と再利用用途の研究を進めてきました。近年は研究機関からスピンアウトしたスタートアップが大企業VCから大型の資金調達を行う傾向にあります。カーボンキャプチャーのビジネスモデルは排出権取引によるクレジット収益であり、取引の要点 となったのが京都議定書であることは、日本のビジネスパーソンなら覚えておくべきでしょう。

 

 

5.企業は気候変動テックと、どうつきあうべきか

気候変動テックのソリューションは長期間の研究開発を要することや、最先端のデジタル技術との結合が不可欠なので、短期的な成果を見込む大企業が自前で参入するにはハードルが高い分野です。

ここでの大企業の役割は自社や自らの業界が抱える気候変動リスクや課題を明らかにし、それを解決する技術を持ったスタートアップに検証と開発する 場を提供することが先決です。未成熟の技術と自社のフィールドを組み合わせて事業を共創するスタンスに理解を示す企業や ビジネスパーソンが増えれば、日本でも新しい商機を掴む企業が増えるかもしれません。

 

 

 

 

越智 岳人

ライター:越智 岳人

編集者・ジャーナリスト
技術・ビジネス系メディアで取材活動を続けるほか、ハードウェア・スタートアップを支援する事業者向けのマーケティング・コンサルティングや、企業・地方自治体などの新規事業開発やオープン・イノベーション支援に携わっている。

 

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